涙銀子 さん

TS3D0327

もう三月。驚いている涙銀子です。
初めまして、との挨拶がふさわしいであろうと思われるこの場所に、劇団翔航群の久川德明氏よりご紹介をいただきました。
久川君ありがとう。

まずは自己紹介。
一体、幾つの草鞋を履いているのだろうと久川君に書いていただいた、まるでムカデのような涙 銀子(るい ぎんこ♂)ですが女性とよく間違えられます。

彼の言うようにボクが何でもかんでもこなしてしまう、というのは違います。
確かに、草鞋の数は多い。しかし、常に大半が脱げかかっている状態。人生を走るのに はっきり言って邪魔です。

思いっきり多才な人です。というのは多分、思いっきりダサい人です。の書き間違いだと思う涙 銀子 滋賀県出身です。

劇作家、演出家、役者、プロデューサー、演技講師、ミュージシャンなどとプロフィールには書くようにしていますが、理由あって本当の正体は明かせません。
こういう場所では決して大きな文字では言えませんから普通のフォントサイズで裏の稼業を語りますと、本職は逃亡者です。確定申告もしている自営業・逃亡者 涙 銀子 年齢不詳です。

歳はとりません。友達はティンカーベルですから。

一昨年の夏。久川君と久しぶりに共演させていただいた舞台で、出会った頃から全く変わりませんね、とのお言葉をいただいたので、俺、全然成長してないからね、と軽口を叩いたら、人の良い彼は慌てふためき「いや、そういう意味じゃなくて!」とマジ焦ってくれて申し訳なかったです。だから今回は括弧付きで(いい意味で)と書いてくれたところに、彼の深い心の傷を感じ反省しています涙 銀子 テアトロ・マジコという演劇集団を主宰しています。

身体に弛みが見当たらない?見たんか!・・・楽屋で見られました。
久川君の、その後に続くボクの身体に関する描写には禁じられた愛情すら感じて幸せですが、最後の「目指せ!涙 銀子の肉体!」という宣言に至っては、まるで女性の肉体美を目指し日夜努力している彼の姿が思い描かれてとても微笑ましく、さらに彼への愛情を禁じ得ないボクでした。

そこでさっそくご質問にお答えしたいと思います。
質問「ホントは、何してるんですか?そんな身体を維持し続ける秘訣は?」
男らしくキッパリと答えます。
回答「遺伝と不摂生!」

不摂生な生活をしていると太れません。夜中でも原稿を書くことが多いので酒はほとんど飲みませんし眠りません。メシは不規則、タバコが増え、締切りに追われる精神的苦痛と緊張の連続。まさに、痩せ細る境遇ですので、それが答かと思われます。

常に逃げ続けています。
締切り仕事バンザイ。人生お手上げ状態です。
台本はもとよりデザイン、イラスト、プロモーション原稿や講義のレジュメなど、才能がなくとも時は平等に容赦なく流れ来て、納期のある制作物と戦う日々の中、締切りから逃亡を企てることが唯一のアクティブな作業となります。
職業・逃亡者という告白はここに見事にリンクされる訳です。

メールを読み込まない、携帯を紛失する、風呂に潜る、東山一万歩コースを駆け巡るなど、際限なく編み出した逃亡方法の中から代表的な作戦をハードボイルドに紹介します。

逃亡の方法・・・?ふん、それは「料理」さ。
幾日もの徹夜。しかし仕事は片付いちゃくれねぇ。
そんな時、思いあまって我知らずPCの前から立ち上がっちまうのさ。
締め切りラスト30分前にどこへ行こうとしてる!
キッチンに向かうのさ。そんな自分に驚くぜ。
クライアントは今や遅しと納品のメールを待っている。刻一刻と迫るその瞬間。
なのに、俺はおもむろに冷蔵庫の扉を開ける。
自分のジレンマとの戦いだ。
20時間以上座りつづけた足腰は弱り、キッチンに立つ動きは感動的なスローモーションシーンだ。
何処からか耳に届く中島みゆきの「地上の星」
視聴者の感動を煽るBGMとしてこの曲を、iphoneで流すことを忘れてはいけない。が、すでに自分の行動もわからない。
恐れている。
その恐れが震えとともに身体を貫く。
今回こそ締切りに間に合わないだろうとの予感。
その恐れにおののく手のひらで俺は、果敢にも野菜を刻み、フライパンを握る。
締切りまであと15分。
恐怖は限界に達するがブルブルと震える手でフライパンのピラフを何度も何度もひっくり返す。やがて気づけば・・・ピラフの大半はフライパンからこぼれているのさ。ふっ。

てな具合の朦朧とした緊張感の連続です。
かつて、何日もの徹夜明けの朝、マウスを懸命に動かしているのに、締切り数分前にポインタが突然動かなくなる!という最大のピンチを体験しました。こんなタイミングでPCフリーズか!と、手元をよく見たら
マウスの横に置いてあったロールパンを握って操作していました。真実です。

さて、このような逃亡生活を告白しつつサブリミナル的に自己紹介を織り込みながら久川君の質問にも答える無駄のない文章を綴ってきたわけですがもう三月。驚いている涙 銀子です。話が振り出しに戻ってしまいました。大長編になりそうです。つきあってくれスマン。
演劇の原点は藤山寛美さんとピーター・ブルック氏です。
藤山寛美さんは子供の時からの憧れ。自分も舞台に立ちたいと願いました。
ブルック氏の伝説の舞台「真夏の夜の夢」に衝撃を受けました。
その後、歌う生活をしていた縁で名古屋のタレント事務所に。
そこで北村想氏と出会い「T・P・O師★団」に入団。舞台という宇宙の虜になりました。
やがて「劇団★唐海賊」を立ち上げ、その舞台を観ることは宝くじを当てるより難しいと噂されました。

そして現在は「テアトロ・マジコ」という集団で劇作、演出、役者、稽古後の戸締まりなどを担当。

テアトロ・マジコは、久川君が書いてくれたように、最初、シェイクスピア作品を上演する集団と言う構想からスタート。
自分なりの「演劇」というものの答により近づきたいがために、ひとまず400年飛び越えてみようと願い立ち上げました。
しかし二作目で「アリス・イン・ワンダーランド」。我ながら見事な浮気ぶりです。

一作目の舞台「真夏の夜の夢」は、現代の日本に舞台を置き換え上演。職人たちの劇中劇を、ネットカフェ住人たちの賞金稼ぎ目当ての素人芝居に。福田、小田島、大場訳では見えない部分を原典に求めていくうちに、執筆時のシェイクスピア氏の心が伝わってくる気がして、シェーちゃんとはすっかりマブダチになりました。
以降、ヴァーチャルアイドルであるアリスがプログラムされた自分の存在理由を、自らが起用されたゲームの中に参加者たちとともに追い求めてゆくという「アリス・イン・ワンダーランド」の世界。
宝島をモチーフに核廃棄物処理場と化した東洋の無人島で繰り広げられる活劇「ジパング」
そして先月上演したばかりの、八世紀のバグダッドに飛び、アラビアン・ナイト創作の秘密をでっちあげた「千夜一夜物語」と、毎回、原作が見え隠れするオリジナルストーリーで上演しています。

テアトロ・マジコのOfficial Siteで、その様子をご覧ください。
http://www.joyspark.com/magico/

次回公演は2014年11月22日から24日。名古屋市千種文化小劇場にて。出し物は未定です。
そのためのオーディションを5月17日におこない、4月からワークショップも始まります。
テアトロ・マジコは劇団ではなくオーディションによってキャスト・スタッフさんと出会っています。
ワークショップから関係性を深め、マジコテイストを感じてもらい、表現に向かいます。
衣装やメイクの華やかな世界観が印象に残ると言っていただくことが多いのですが、その世界の裏には、10数人のヘアメイクさんに秒単位のメイクチェンジ作業で支えていただいたりなど、毎回、100人前後の方々のエネルギーを結集して、半年以上かけて一本の舞台を作っています。
ファンタジックな色合いが濃くメルヘン風かと思われがちですが、かなり違います。
夢のような幻想性とナマものの娯楽性で小学生からお年寄りまで、幅広い世代の心をかっさらえればと願っています。

演劇が好きな理由は、虚構とリアルの隙間でお客様と一緒に自在に遊べるメディアだからです。
世界は形あるものだけで構成されてはいない。
遠い過去の歴史の彼方より未来永劫の彼方に向けて、自然界からはじき出されそうになりながら生きてきた人類という生命にとって、虚構と現実は本来地続きであるという真実を知ることが、その健気な存在に与えられた唯一の使命であるような気がします。

演劇はその忘れかけた使命をボクに思い出させてくれます。
この場所で、同じ使命を持った方々と、また新しく出会えたのであろうとの感触に幸せを感じています。ありがとう。

そんな次の出会いに向けて、ボクから紹介させていただく方は、劇団アルクシアターの弥富又八さんです。
劇団アルクシアターの主宰者でありつつ、劇作家、作曲家、演出家、として活躍中。毎回、心奪われる時空間を展開する、ボクより草鞋の数が多いマルチアーティストです。

彼との付き合いはずいぶん長く、舞台の共演だけでなく、LIVEでの対バンやプロモーションの仕事では楽曲を提供してもらったり、酒や珈琲を飲みながら話を伺ったりと、いつも刺激をもらっている方です。
ボクは彼の作品の背後に感じる、世界というものの透明な気配が好きです。

その彼に質問をいたしましょう。
質問 様々な仕事をマルチに次々とこなすあなたですが、膨大な締切りを守る秘訣を教えてください。

このお答をいただくことで、涙 銀子も逃亡者という職業からやっと足を洗うことができるでしょう。
よろしくお願いいたします又八君。

最後に、みなさんへ。

出逢ってくれてありがとう。