弥富又八 さん

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弥富又八
劇団アルクシアター主宰 劇作家・作曲家・演出家

涙銀子さんからバトンを受け取りました。ありがとうございます。

涙さんとの出会いは二十年以上も前。役者として共演したり、涙さんの作品に出演させていただいたり、ファミリー向けアトラクションを一緒に作ったり、私が主催する音楽イベントにシンガーとして出演していただいたりとこれまでに様々な現場でご一緒してきました。
「とにかく表現し続けなければいけない」「とにかくやり続けなければいけない」という涙さんの意欲には共感するところがあり、たまに会って芝居や音楽の話をすると決まって時間を忘れて熱中してしまいます。
いつか一緒に作品を作ろうなんてことも話していて、今後、合作の発表なんてこともあるかもしれません。

さて、涙さんからの質問は「締め切りをどう守るか」ですね。
私は劇団アルクシアターの主宰兼演出家で、座付き作家として台本執筆と作曲もしています。アルクシアターの舞台はシリアスなテーマにオリジナル楽曲を活用するスタイルで、舞台を躍動させるために歌やダンスが織り込まれます。というわけで「ミュージカル公演」と銘打つ場合も多いのですが、多くの方が想像される「いわゆるミュージカル」ではありません。ファミリー層がワクワクして、女子が夢見心地になるってものは作れません。
私自身、涙さんと同じく小演劇やアングラ演劇という荒んだ場所で演劇センスを育んだことと、若い頃に知り合いの居酒屋の店主からあちこちの大劇場公演の無料券をいただけたのも今の作風に大きく影響しています。店主のおかげで結構たくさんの日本のミュージカルを見ることができたんです。翻訳ものからオリジナルまで、テレビでよく見る人が出演していたり、昔アイドルだった人が主演で歌って踊るというのも多かったです。これが見事にひとつも面白くなかった。結果「あんな風にはやらない」という価値観を得られたんです。これは創作者として大きな財産です。
だから私が劇団用に台本を書く場合は芝居ごと最初から発想する意気込みです。「やっちゃいけない感じ」をたくさん抱えてね。
公演のための稽古始めで台本や歌が全て揃う?…記憶にありません。
それが作家の締め切りだとしたら毎回アウトです。
座付き作家ですから役者と一緒にひとつひとつシーンを作って積み上げてゆくことがそもそもの役割というところもありますけど…とにかくアルクシアターのための作品は苦労するんです。それこそ「もう出来ない!全部投げ出して消え去りたい!」なんて毎回思うくらいね。
私は劇団の他に、テレビ番組やCM、キャンペーンソングなどの作詞作曲をやったり、イベント用のステージ台本、子ども向けミュージカルの台本執筆なんかもやっています。こちらでは締め切りを破ったことは一度もありません。ミスをすると次がなくなるというのもありますが、劇団以外のものを作るのにあまり苦労をしないのです。30分のステージ用台本を20分で書き終えるなんてよくあります。テーマソングやキャンペーンソングの作詞作曲は打ち合わせの翌日に完パケ(歌入り音源)納品なんて毎度のことです。
これは演劇での作品作りで長年苦労し続けてきた成果ですね。どう発想してどう組み上げていかに効率よく仕上げるかが体に染み付いているのです。…なんて、わかっているのに劇団の新作となると全くそうはいかないのです…毎回これまでになかったものを作ろうと欲を出すのがいけない…いや、いいのか…本当か?
さて、私はいつも台本や作曲、演出といったクリエイティビティな部分で芝居作りに携わりますが、作品の実現、運営を把握する舞台監督と役者を兼ねてくれるメンバーがアルクシアターにはいます。
丹羽亮仁です。
役者としていつもメインどころを演じてくれる彼は、舞台監督を兼任する場合も多いです。「役者と舞監なんて矛盾だ」と思われる方もいるかと思いますが、アシスタントをうまく使ってやるんですよ。
劇座にも在籍しており、演出や、演技講師も行う彼の才能のおかげでアルクシアターの作品に深みが増していることは明らかなのですが、ここで丹羽君に質問です。
「舞台監督は斯くあるべき」という悩ませてしまうような題材(笑)と、初心者にもわかりやすく「舞台監督ってなにをする人?」のふたつを役者の観点も含めて教えてください。
それではみなさま。私はこれで。
劇団アルクシアターの舞台でお会いしましょう。