よこしまブロッコリー『欲しいと言ったり、嫌だと言ったり』

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よこしまブロッコリー『欲しいと言ったり、嫌だと言ったり』の稽古場にお邪魔させて頂きました。

最近は『物語とじっくり過ごしたい人々に』というキャッチコピーを使われているよこしまさんですが、今作も会話劇を非常に丁寧に作り上げていました。

今回の舞台は断食道場ということで、これまで以上にこの劇団に合った舞台ではないかと思いながら取材させて頂きました。

完成度の高い会話劇を楽しみたい方にお勧めです。

●にへいたかひろさん(作・演出・出演)、松浦功さん(出演)の話

――今回の作品はお寺が舞台ということなのですが、そこを選んだ理由を教えてください。

にへいたかひろさん(以下にへい):お寺が経営している断食道場ですね。最近はファスティングって言い方をするんですけど。健康ブームでいま断食が流行っていて。元々はお寺で修行する方が来る施設だったんですけど、今はそういう健康の為の場所。元々断食道場の話は10年くらい前に考えていて、ただ当時のぼくには重過ぎたのでやめてたんですね。改めて最近仕事で色々な考え方に出会うんですけど、凄く禅が流行ってる。スポーツメンタリズムとか言いながら禅に近い考え方をしていたり。人は揺れる、人は思ってしまう、というのを受け入れて、それらを整える。でも結局ぼくらって気が多いし、禅とかファスティングとか今の考え方を下敷きにしつつも、それでもなかなかうまくいかない様を描くことで、より観る人の物語になるんじゃないかと思ってるんです。

――今回の役をやる上で意識されていることはありますか。

松浦功さん(以下松浦):最初に台本を読ませて貰って、結構ぼくの心境と近い所があったので、自分と少しシンクロさせながら。あとは禅の資料を読んで分かってきた部分があって、あれはこれは駄目、ということではなく、そういうもんなんだよ、そうなんだよ、ということを全て受け入れるということ。なのでこの舞台に対してもこれをしちゃ駄目とかそういう考え方ではなく、こうなっちゃったなという所から作っていった方がこの舞台にはあってるんじゃないかと思い、そういうアプローチをしています。

にへい:30代のドラマにしようって言ってたんだよね。30代って何か任されて出来るって部分もあるんだけど、じゃあ若い時に思っていた程うまくいってるかというとそうでもなかったり。気が付くと全然違う地点に行っちゃったりとか、目指していた地点にはいるんだけど、見えてる景色は全然違っていたとか。そういうことが色々分かってきて、それを飲み込もうとして葛藤している気がして。40代になると少し開き直ってきたので、少し昔の自分を振り返ってって感じなんだけど。

――30代という括りは作品全体に及ぶことなのでしょうか。

にへい:出てくる中心の世代を30代に設定している。若い人もいるし、年上の人もいるんですけど、20代の時の若さだとか情熱だとか突破力だったりとかそれだけでは済まない状況の人たちを描けるといいかなと思っていて、それを象徴的な言葉で言うと、30代の人達のドラマ。実際は色々な見方を出来ると思うんだけど。

――演出でこだわっている所はありますか。

にへい:うちはいつも会話劇なので、目の前の人とのやり取りを凄く大事にして貰いたい。役者さんは考えてきたこととか、背負ってきたものに重視しがちなんだけど、それを身体の中に置いた上で目の前の俳優のことを意識してくれると嬉しいなと思っています。あとは見る人に印象がうまく伝わるように演出としてコントロールしたりとかチューニングしたりとかですね。結構役者さんはぼくの考えたものと違うイメージで持ってくるんですけど、それが結果的に面白かったり、意図として合っているものは全て貰って、それをチューニングして役者さんに分かるように提示する。

――舞台美術も普段見られないような雰囲気ですね。

にへい:今回も野地さんとやるんですけど、野地さんとやっていて嬉しいのは、微妙な感覚を受け取ってくれる所。場所の設定や物の配置は凄くリアルなんですけど、それを抽象的に見せたいというのをちゃんと汲んでくれる。今回は布が凄く大きな要素であって、人の動きで動いてしまうセットなので、それがそのまま作品全体の空気の振動みたいなものとしてお客さんに伝わるといいなと思っています。

――最後に見所を教えてください。

松浦:30代くらいの年代の方々に、この気持ち悪いモヤモヤだとか、そういう細かい部分を隅の方まで感じて貰えたら嬉しいなと思います。

にへい:物語をぼくらは大事にしていて、今ってテンポの早い物語が凄く多いんですけど、そうではないゆっくりした時間の中で人をじっくり味わえる作品になってるかなと思っています。よこしまらしいそういう柔らかくてゆっくりした空気の中でヒリヒリしたものを味わって貰えるんじゃないかなと思います。

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よこしまブロッコリー『欲しいと言ったり、嫌だと言ったり』

脚本・演出・音楽:にへいたかひろ
会場:七ツ寺共同スタジオ
日時:2016年7月1日(金)~3日(日)
出演:深川あずこ、松浦功、江上定子、須原麻衣(ブリッジプロモーション)、すずきたつろう、鶴田雅弓、榊原耕平、近藤桃子、にへいたかひろ

詳細はこちら
http://www.yokoshima.info/