映画『星と月は天の穴』荒井晴彦監督、咲耶さんインタビュー

12月19日より全国ロードショーされる映画『星と月は天の穴』。今回は日本を代表する脚本家でもある荒井晴彦監督と、ヒロイン役の咲耶さんにインタビューさせて頂きました。

本作は吉行淳之介による芸術選奨文部大臣賞受賞作品を映画化したもので、過去の離婚経験から、恋愛願望をこじらせる40代の小説家の滑稽で切ない愛の行方を描いた作品です。

重みのある言葉を発する荒井監督と、ひとつひとつ懸命に向き合って話してくれる咲耶さんの対比が面白く、また、半世紀近く歳の離れたお二人にも関わらず、互いの信頼関係がしっかり構築されている部分も非常に興味深く感じました。

――本作は、10代の時に原作を読み、そこから長年の念願で作ったそうですが、10代の時の感覚で作ったのか、40代を経て、矢添に乗せて作ったのか、どちらでしょうか。

荒井晴彦監督(以下荒井):10代でも40代でもなく、撮った時は77歳だから、77歳の感覚としか言いようがない。69年当時の、彼女(紀子)の彼氏のポジションがぼくです。紀子の彼がその時に受けた傷を、歳を取っても引っ張っていたとすると、矢添になる。ダブっている感じですね。傷が癒えない感じ。女の人より男の方が傷が深いんじゃないのかな。女の人は別れると、まるで「そんな人知らない」ってなるから。男は良い思い出にするっていうか。こっちはずっと同じような感じでいても、相手は「あなた誰」みたいな感じだからね。

咲耶さん(以下咲耶):わたしも原作読んだ時、男ってこういう所あるよなと思いました。

――前作同様、本作の主演は綾野剛さんですが、綾野さんの魅力を教えてください。

荒井:とても拘りのある役作りをする方。

咲耶:物凄く頼りになる方です。凄くアドバイスをくださって。わたしが素人みたいなものでしたから、お相手が綾野さんで心底良かったと思います。教え方もお上手で、すっと入ってくる。たまに難しい顔をしている時に話しかけると、「あ、僕? ぼーっとしてた」みたいなこともあって(笑)。可愛らしい一面もある方ですね。

――咲耶さんに「こう演じて欲しい」とか、ディレクションがあったのか教えてください。

荒井:全然無いです。オーディションで「この子でいこう」と決めたら、あとは余計な事は言わない。放し飼いです。

――紀子は当時としては先進的な女性だったと思いますが、グイグイいく所もあって、難しい役だったのではないでしょうか。

咲耶:わたしとしては、とても演じやすい役でした。彼女がそういう性格、価値観のまま少女から女に変わっていく。欲望を知っていって、凄く素直な子なんだと思うんです。紀子は英語を勉強していますよね。そういう所も関係するんじゃないでしょうか。

――演じやすかったのはご自身と性質が似ていたからなのでしょうか。

咲耶:紀子というキャラクターの中にちょいちょい共通点があるというのもあるんですけど、わたしは逆に現代の学生だったり刑事だったりが難しいんです。紀子は難しい役と思われやすいんですが、そういう役の方がわたしは演じやすいんです。本当に現代の学生役は難しいんですよ(笑)。性質だと思います。

――映像だけでなく、演技の質感も1969年に合わせたように思えて凄く面白かったのですが、意識された部分があれば教えてください。

荒井:そういうのはないですね。現場でやってみて、シナリオの読み方が違うなと思ったら言うけれど、そうじゃなかったです。

咲耶:わたしとしては意識はありましたね。荒井さんの書かれる脚本と原作。作品として、現代の自分の喋り方では成立しないだろうなと思ったんです。本作は吉行さんの原作がある中での映画なので、リアルじゃないものをまたリアルじゃないものにしてるじゃないですか。当時のドキュメンタリーを観て、そういうリアルを踏襲することも大事かなと思ったのですが、わたしとしては当時の映画の女優さんの喋り方を参考にしようと思いました。自分では、64年の『卍』っていう、谷崎潤一郎原作の若尾文子さんを参考にしたって思ってたんですけど、この前観返したら、わたしが落とし込んだのってもしかして岸田今日子さん演じる園子じゃないかと思ったんです。あれ?って。そういう気付き。自分では参考にしたと思った人がいても、荒井さんにブランコに乗せられて揺さぶられる中で、紀子って人になったんだと思います。

――出演作はどのように選ばれていますか。

咲耶:わたしは基本的にお仕事を選ばないです。頂いたお仕事は基本お受けします。ただ、今回の作品に関しては、オーディションの段階で熱意が違いました。わたしがなんとなく抱いていた妄想、純文学の登場人物になりたいというもの。そういう、願ったものが突然目の前に具現化されて現れて、絶対これは全力で頑張らないといけないと。それこそ紀子みたいに欲に真っ直ぐに。

――完成した映画を観ての感想はいかがでしたか。

咲耶:素直に物凄く嬉しかったです。いざ大きなスクリーンで観てみて、わたしが理想的と思っていた形になって。わたしはカメラの前で裸になる事に抵抗はないんですけど、大きなスクリーンで観たら恥ずかしいのかなと思ったんですが、いざ観たらモノクロであって、絵も美しく。客観的に観て、「こんなに綺麗に撮って頂けて」と思って。また、通して観た時に「やっぱりここ笑えるな」とか、そういう所が確認できて嬉しかったです。

――監督としては、作った前と後で変わった所はありますか。

荒井:友人の監督が、「文学と映画の幸運な出会いに思えた」と言ってくれて少し自信が持てました。でも、お客さんはどうだろう。最近は分かりやすすぎる映画が多いから。

咲耶:わたしは特に自分と同世代の方に観て欲しいなと思っています。

荒井:女の人の方がちゃんと受け入れてくれる感じがする。女の人が多く来てくれると嬉しいな。

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『星と月は天の穴』

脚本・監督:荒井晴彦
出演:綾野剛 咲耶 岬あかり 吉岡睦雄 MINAMO 原一男 / 柄本佑 / 宮下順子 田中麗奈
2025 年|日本|R18+
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2025「星と月は天の穴」製作委員会

詳細はこちら
https://happinet-phantom.com/hoshitsuki_film/