映画『星と月は天の穴』の荒井晴彦監督とヒロイン役の咲耶さんが登壇した名古屋での舞台挨拶の模様を取材させて頂きました。
本作は吉行淳之介による芸術選奨文部大臣受賞作品を映画化したもので、過去の恋愛経験から、恋愛願望をこじらせる40代の小説家の滑稽で切ない愛の行方を描いた作品です。
思い出話を交えながら話す荒井監督と、監督に敬愛と愛着を交えて話す咲耶さんの掛け合いが非常に楽しい舞台挨拶でした。
舞台挨拶リポート
――咲耶さんは初めて名古屋にいらっしゃったということですが、名古屋はいかがですか?
咲耶さん(以下咲耶):東京よりも道が広いなと思って。別の街に来たんだなと感じました。あと、先程、お昼に初めてひつまぶしを食べましたが、美味しかったです。
――荒井監督の作品に出演するのは初めてだと思いますが、オーディションで最初にお会いした時の印象はいかがでしたか。
咲耶:オーディションを受ける前は、荒井さんはちょっと怖いのかなというイメージがあったのですが、実際にお会いしたらイメージが変わりまして。現場でもご一緒する中で、荒井さんはチャーミングで可愛いおじいちゃんだなっていう印象に今はなっています。
荒井晴彦監督(以下荒井):そんなことないよ、エロじじいだよ。
咲耶:そうとも言いますけど(笑)、可愛いおじいちゃんです。
――逆に荒井監督は咲耶さんがオーディションに現れた時の第一印象はありますか。
荒井:やっと現れたと思った。1960年代はみんな背が小さかった。今は女の人も大きいじゃない。あの頃は160センチでも大きかったから。咲耶も小さくて、髪が長くて暗い感じだった。暗い感じの女の子好きなのでね。見た途端に決まり。
――現場ではどうでしたか。
荒井:良い根性してるなって思いました。
――映画の現場自体もまだそれほどやられていないと伺いましたが、撮影で大変だったこと、楽しかったことはありますか。
咲耶:映画の撮影自体は毎日大変だったんですけど、楽しかったです。一番大変だったのは、ラブシーンを3つ立て続けに、会話も含めて丸一日撮った日があって。その日は物凄くハードでしたね。神経を張り詰めていて、ご飯も水分も取れない状態だったので、途中で集中力が切れて、撮影を止めてしまった事もあってご迷惑をお掛けしました。
――綾野さんとの共演ではどのような話をされていたのでしょうか。
咲耶:綾野さんは凄く頼りになる先輩で。わたしが素人に近いものですから、技術的な面、メンタルな面、たくさんアドバイスをくださって。荒井さんは演出される時に結構文学的な言い回しをされるんですね。わたしが頭の中でハテナってなってる時に、綾野さんがすぐ汲んでくださって、「荒井さんは今こういう事が言いたかったんだと思う」とか、そういう風に分かりやすく説明してくださったり。あと、撮影中に演出が急に変わって、お芝居を変化させないといけない時のコツだったりとか、そういう技術的な面でもサポートして貰い、大変ありがたかったです。綾野さんが共演で幸運だったと思います。
――荒井監督が原作に出会った時のお話を教えてください。
荒井:まだ19になる手前かな。連れ込み旅館に行って、欲情しなかったのに、部屋の隅にある陰毛の塊を見て急に欲情した、というのを読んで妙に分かる気がして。想像力っていうのが必要なんだなって思って。ラーメンに胡椒がいるように、セックスにもそういうものが必要なんだなと思ったんですよ。
――舞台が1969年ということで、ロケーションや出てくる車や衣装など、だいぶ拘わられたと思うのですが、その辺りで苦労はありましたでしょうか。
荒井:車もだいぶ探して見つけてきたんじゃないかな。綾野が「ハンドルが重い」って苦労してたみたい。
――あれは実際に吉行淳之介さんが乗っていた車種を見つけてきたと伺っています。衣装もそうですよね。
荒井:吉行さんが着ていたような衣装を似せて作った。
――ここに注目というシーンについて、言える範囲で教えてください。
咲耶:これは矢添さんの台詞なんですけど、「隠しているものが現れたとき、一つのことは終わるのさ。そして、また別のことが始まる」という台詞があるんですけど、それは登場人物全員に当てはまる事なので、それが一体なんなのかという所に注目して欲しいです。
――最後にお二人にご挨拶をお願いします。
咲耶:全編モノクロで、原作が純文学で、荒井さんが監督脚本で、少し堅苦しいかなってイメージする人も多いと思いますが、実は結構笑えます。恐らく原作を読まれている方はご存知の展開もあるかと思うんですけど、わたし自身はこの作品はコメディーと思っていて、気楽に、観る文学、読む映画、これは綾野さんの言葉をお借りしてるんですけど、そういう気持ちで観て頂けたらいいなと思います。
荒井:昔ATGってあって、低予算で冒険的に映画を作っていて、そういう感じを狙ったんだけど、最近は分かりやすい映画ばかりだからどうだろう。僕は大学でシナリオを教えてるんだけど、ナレーションとかモノローグとか回想シーンとか、「しょせん説明だからやるな」と教えてるんだけど、この映画はやるなと言った事のオンパレードなんで。それしか手がなかったんですよね。普段、粗探しして「原作バスター」と言われてるんだけど、好きなものはラブ・イズ・ブラインドで、標的になれないんです。ほとんど原作通りで。2行くらいかな原作じゃない仕事をしたのは。そこは観れば分かると思います。それが69年に設定を変えた理由です。次回作に繋がるかどうか、もうすぐ80なんですが、まだまだ撮りたいものが沢山あるので、是非お願いします。
+++++
『星と月は天の穴』
脚本・監督:荒井晴彦
出演:綾野 剛 咲耶 岬あかり 吉岡睦雄 MINAMO 原一男 / 柄本佑 / 宮下順子 田中麗奈
2025 年|日本|R18+
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2025「星と月は天の穴」製作委員会


