映画『くじらびと』

映画『くじらびと』の石川梵監督に取材をさせて頂きました。

インドネシアのラマレラ村にて鯨漁を続ける人々を追いかけた作品です。

取材でも「ドキュメンタリーぽくしたくない」というお話をされていましたが、演出的な装飾を絞り込み、現地の空気をありのまま伝えようとする意思を強く感じました。

映像はとにかく美しく、青い海が鯨の血で赤く染まっていく光景は壮絶で、地球上には今でもこのような営みがあるのだという事実を突き付けられ、生きるとはどういう事なのかと改めて考えさせられました。

●石川梵監督の話

――監督の中で、ドキュメンタリーを撮る際の流儀はありますか。

石川梵監督(以下石川):まずは仲良くなる事ですね。だからまず関係を作るというか、関係が出来た後に取材に入るというか。興味のある人に近付いていって、その延長線上に写真があるという事が多い。僕は91年に初めて現地に行ったんですけど、最初は勇壮な鯨漁をいかに撮るかを考えていましたが、行けば行くほどそのバックボーンにあるものに惹かれていった。何故彼らは誇り高いのか。そこには皆の為に戦っているという矜持がある。

今回はドキュメンタリーぽくないドキュメンタリーを撮るのが目的で、まるで劇映画のように撮れないか。ドキュメンタリーってナレーションが多いんですけども、なるべくそれは使わなかった。そうすると深い取材をして、ドラマを捉えていかないといけないので凄くハードルが上がった。また音には凄くこだわった。例えば銛を突くシーンで「ジャジャーン」とやったら台無しなので、そこで地鳴りを使ったりと工夫をしている。

――人と仲良くなる事が大事という話でしたが、どのように仲良くなっていったのでしょうか。

石川:もう長いですからね。最初の頃に「飴くれ」って来ていた子供が、「タバコくれ」って来たりする。そのくらい昔から知り合いなので。「ボン、お前も船を漕げ」「船を押せ」とかね。そういう人間関係を超えた仲間みたいになっていて。ドキュメンタリーぽくないものを撮ろうとすると、凄く近寄っていかないといけない。それが出来たのは関係性があったから。僕がひとつ心掛けているのは現地に還元する事。撮った写真をあげるとか、番組を見せてあげるとか。それをすることによって、撮り逃げじゃなくて対等な関係になれる。

2010年に村に訪れた時、結構村が揺れていたんですよ。何故かというと、反捕鯨団体が入ってきていて、捕鯨から手を引かせようとしていた。そんな時期に古老のおじいさんからね、「昔、村がひとつだった頃の私達の姿を、ボンの撮った映像を通して見せてあげてくれないか」と言われて。本来、映像を撮って海外に紹介するのが目的だったのに、世代を超えてそれを見せられるというのがとても嬉しい事でね。やがて消えていくかもしれない捕鯨を世代を超えて見せることが出来るかもしれない。それは非常にやりがいのある事だと思いました。

――村の人達の考え方であったりとか、人柄であったりとか、監督はどのようにお感じになられましたか。

石川:僕は鯨漁はそんなに長く続かないだろうと、21世紀になったら無くなるだろうと思っていた。ところが無くならない。それはどうしてかと考えるとそこには信仰がある訳です。鯨と戦う事で村人は団結している。そこに芽生えた信仰心は根深いものがあって。この映画の中ではわざと、携帯電話で写真を撮っている人とかも入れているんですね。この村も少しづつ変わってきている。でも彼らには信仰があるから安易とは変わらない。彼らには和を尊ぶ所があって、優劣を付けて和を乱すのを嫌う所がある。人との和もありますし、自然との和、鯨にもあります。映画の最後に「鯨に感謝している」と言っていましたが、そこに全て凝縮されている気がします。

――撮影時はどのような体制で臨んだのでしょうか。

石川:1人は空撮専門で、1人は助手兼第3カメラマン。そして僕は自由自在に動きながら、いけそうだという船に乗り込む。また、どこまで突っ込んでいくかとか、その匙加減も大事です。鯨にドーンとやられた時にカメラを守っていると撮れないし、撮りにいくとカメラが壊れてしまう。シミュレーションは常にしていました。

――カメラワークで特にこだわられた所があれば教えてください。

石川:空からの視点と、海上の視点。そういう意味ではドローンが凄く活躍しました。これは想像していなかったんですけど、船が物凄く揺れて、見ていると船酔いしてしまう。それを避けたくて、スタビライザーやドローンを使いました。あと昔面白い事があって。「ボンの写真はおかしい」って言うんです。「生きてる」っていうんです。「この写真は死んでいるのに、これは生きてる」って。写真の事なんか分からないはずなのに。僕の撮り方の習性なんでしょうけど、格好よく撮ろうとしますよね。僕が好きな人は皆格好いいんですよ。

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『くじらびと』

9月3日(金)よりミッドランドスクエアシネマほかにて公開

監督・プロデューサー:石川梵
編集:熱海鋼一、蓑輪広二
撮影:石川梵、山本直洋、宮本麗
音響:帆苅幸雄
音楽:吉田大致、はなおと
歌:森麻希
配給:アンプラグド

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