演劇ユニット together again『父と暮せば』にメール取材をさせて頂きました。
井上ひさしさん作の『父と暮せば』で日本各地を回っているそうです。そして各地で好評の作品が、満を持して名古屋初上陸とのことです。
世代によって感じるものが違う作品になるのではないでしょうか。公演を重ねることで熟成された今作、非常に興味深いです。
●宇都宮裕三さん(演出)の話
――『演劇ユニット together again』がどういうユニットなのか教えてください。
宇都宮裕三さん(以下宇都宮):2000年に仲間の役者さん達と立ち上げたユニットです。私自身85年から石橋蓮司さんの「第七病棟」にいたのですが89年に退団、一度演劇から離れました。けれど作演出として再びお芝居に、との思いで出発しましたが3年で再び活動休止。三たび活動を始めたのは2011年。以来ほぼ毎年大小の公演を続けて来ました。
今は私の作演出で作品ごとに役者さんに声かけまたは募る形でキャストを集めます。既成作品を上演するのはこの、井上ひさし作「父と暮せば」だけです。
――今回、この作品をやろうと思われたきっかけを教えてください。
宇都宮:2011年活動再開のきっかけの一つが東日本大地震でした。仙台の河合塾にもう十数年出講してるのですが、生徒や知り合いの多くが津波の被害に遭い、さらに原発事故まで起きました。
震災後この「父と暮せば」を仙台で上演しようと無性に思ってしまったのです。津波で家族を失った人がインタビューで言った言葉「どうして私だけが生き残ってしまったのか」、これは「父と暮せば」の美津江の台詞と正に同じでした。
この作品は、こういった「誰もが大切な人と死に別れた際に抱え込んでしまう罪悪感」と正面から向き合った魂の救済劇であり、その普遍性をまざまざと感じた訳です。以来毎夏8月に仙台やその他の地で上演し、その度に反響は実に深く生々しいものがありました。
あともう一つ、原発事故への危機感がありました。福島の「被曝」は広島の「被爆」が繰り返されたもの、決して過去のものではないことを突きつけました。その後遺症に苦しむ主人公の美津江にはそういった心の重しがかぶさってる、そういう現代に通じる心理劇でもあり反戦劇でもあるのです。
――ドラマリーディングという手法を選ばれたのはどうしてでしょうか。
宇都宮:実は完全なドラマリーディング形式ではなく、途中から台本を離れて立ち芝居に変わります。台詞は覚えたまま二人の語りを通じて演技している、と考えて下さい。なので「二人語り芝居」と銘打っています。
この形式は旅先に持って行って即日立ち上げられ、費用も時間も最小限の機動性で、2011以来、仙台7回、新宿3回、大分、札幌2回、金沢、能登珠洲、宮城丸森、と全国30ステージほど回って来られたのはこの形式だからです。劇場、公民館、学校、教室、喫茶店いろいろな場所で上演してきました。
あと実は、この作品に関しては「立ち芝居で演じて見せてしまうより、語り芝居の方が、観るもの聴く者の心を激しく揺さぶる」という確信が私にはあります。観客には「役者の動きや舞台装置を観る」のではなく「目の前の役者から生の感情を感じとり、あの日のヒロシマの声を聴いて」もらいたい。劇中のショパンのピアノ曲と共に想像力が刺激されるはずです。
――今回この作品をやるにあたって特に意識されていることがあれば教えてください。
宇都宮:なにしろ最終公演ですから演じる側も総決算のつもりで全部出し切ろうと思います。
あとは前半「喜劇の可笑しさ」で跳ねたいな、と。
どうしても「重くるしい原爆劇」という観客の思い込みが劇場の空気を最初から重くしてしまいがちなのですが、作品のノリは井上作品独特の喜劇ベースです。
ボケと突っ込みの掛け合い親子漫才のテンポが広島弁で駆け巡る「陽」と、原爆の悲惨さの「陰」の転調のコントラストをどこまで突き抜けられるか、目指すは「大助花子」のノリかなぁ(笑)。
――今公演の見所を教えてください。
宇都宮:なんと言っても女優を見ていただきたい。
板垣桃子は、東京の小劇場シーンでは本当に人気のある実力派舞台女優で、彼女の所属する「劇団桟敷童子」は2000年以降圧倒的パワーと熱い演技で多くの支持を得てきた人気劇団です。東京、福岡、横浜、札幌、新潟で公演してきたようですが名古屋は初めての登場です。是非この機会に見ていただきたい。激しい感情の振幅とピュアな魅力を合わせ持つ稀有な女優です。
「父と暮せば」の美津江役を演じたい一心で私らの公演に参加、2012夏、2013春、2014夏と各地を巡演、今回4回目の出演です。
一方の父、竹造役の若林正の「昭和のチャブ台ひっくり返し親父」のパワーも見所満載です。
皆様、是非、3/17.18小劇場G/pitまで足をお運びください。お待ちしてます。
「あ、あと言い忘れてましたが、私、名古屋生まれの名古屋育ちです、名古屋に沢山友人が居ます。みんな!観に来て下さい!」
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演劇ユニット together again『父と暮せば』
作:井上ひさし
演出:宇都宮裕三
場所:G/PIT(地下鉄東山線伏見駅より徒歩5分)
●名古屋公演
3月17日(土):14時〜/18時〜
3月18日(日):15時〜
公演時間は1時間20分
開場は開演の30分前
出演:板垣桃子(劇団桟敷童子)、若林正(大沢事務所)