投稿者「名古屋演劇アーカイブ」のアーカイブ

井神拓也 さん

小森さんからバトンを受け取りました井神です。小森さん、ありがとうございます。

私は京都でヨーロッパ企画という劇団の制作をしています。
出身は北海道で、20代後半は札幌で制作の仕事をしていましたが、30歳をまえに(まあ、よくあるやつです)、演劇からは足を洗おうと心機一転、関西にやってきたのですが、半年も経たないうちにヨーロッパ企画を手伝い始めるようになり、あれよあれよという間に17年が経ちました。今ではすっかり京都に馴染み…と言いたいところですが、私が頑固なのか京都がイケズなのか、都合よく京都人のふりをしたり、道民なので…ととぼけながら居留民気分で暮らしております。
ヨーロッパ企画は京都・同志社の演劇サークルにいた3人が旗揚げし、学生時代のメンバーを中核として活動を続けて22年目になる劇団です。2006年には「株式会社オポス」という名前で法人化しまして、マネジメントも担当する社長のもと、私は主に劇団公演を担当しています。この10年くらいは年に1作、京都で新作を製作しては国内各地のわりと決まった都市・劇場を回るというスタンスで活動しています。こちらのリレー執筆陣の皆さんにもあちこちで助けていただいています。
一時は「制作者としての職能と専門性を確立してどこに行っても通用するように…」とか生真面目に思っていた私ですが、今は気負わず「劇団員」なんだから劇団にまつわること、演劇のことならなんでもやってみよう、という精神で取り組むようになりました。

さて、小森さんのご質問「心身の健康のために心がけていること」への答えですが、とにもかくにも「機嫌よく暮らす」ということをモットーとしています。そしてこの課題は日々試行錯誤です。「機嫌よく」というのはなんとも難しい。
機嫌よく暮らすためには、まずは機嫌よく仕事したいものです。
まだ若かった時分、今から20年以上前の現場というのは、なんだか不機嫌なまま仕事している人が今よりたくさんいました。現場では怒鳴り声が飛び交い、よその現場で起きた暴行沙汰を武勇伝のように聞かされることが多かったし、それは尊敬する諸先輩方にも多い仕草だったので、自分も見習って似たような経験をしていくものだと思っていました。
30代で京都に来てから、だんだんそういう自分が恥ずかしくなってきたし、後悔することが多くなってきました。ヨーロッパ企画のメンバーがいつもヘラヘラ楽しそうにふざけていて、それでいてちゃんと結果は残す面々だったことの影響も大きかったように思います。
自分の暮らしでいえば、体調管理、早寝早起き。当たり前ですけど、そういう簡単なことほど難しい。
二日酔いするまで飲みすぎない、といいたいところですが、まあこれは機嫌よく飲みすぎた結果なのでプラマイゼロということで。
それから、ちょっと上機嫌に振る舞う、ということも常に意識するようになりました。まあまあなおじさんである私としては、いつもどおりの感じでやっていると、あのおじさん疲れてるのかな、今日も顔色悪いな、と思われかねません。あのおじさん、明るいけどネジ一本抜けてしまったのだろうか、と思われるくらいでちょうどいいと思っています。これ、自分でやってみて気づいたのですが、あの先輩もあの大御所も、実はあの時これをやってたんじゃないだろうかと思い当たるようになりました。それから、なぜだか周囲に不機嫌な人が減っていくというのも思わぬ良い副作用です。
あとはどんな黒い感情や嵐のような不安に苛まれていても、家に帰って二匹の猫が出迎えてくれれば万事解決です。うちの猫たちはお察しのとおり世界一賢くて優しくてカッコいいのですが、ご主人様のような横柄な態度で機嫌よく威張っている二匹の存在に毎日どれだけ助けてもらっていることか。夜は早く寝ようと鳴いて誘い、早朝寝ているところも構わずカリカリ出せと噛みついてきてくれるおかげで、早寝早起きさえ簡単に実現できました。私の結論としては、心身の健康のためには猫を飼うのが最短ルートです。

…というところまでを3月末に書いたところですっかり原稿が止まってしまいました。
今は2020年の6月でして、バトンを受け取ったままコースを見失って悪路に迷い込んだ気分です。
新型コロナの影響で文字通りすべての劇場が閉まってしまい、私たちの業界も経験したことのない事態を迎えました。
舞台制作の仕事は、ある程度経験するとちょっとしたアップデートや隣接した異分野の慣習を覚えるだけで回していけることが多く、1年先でもわりとはっきりとした仕事の予定が立っていて、見通しのきかないことは少なかったのですが、この数か月はまさかこんなことになるなんての連続です。初めて公演中止や延期の判断を迫られたり、チケット払い戻しの段取り、半年前には存在もしていなかった種類の補助金の書類づくりや、数か月後に迫っているのにやったこともないタイプの企画立ち上げを進めています。
逡巡している暇もなく、ここはいつもの「なんでもやってみよう」の精神で劇団と乗り切っていこうと日々悪戦苦闘しているところです。
一つ劇団の宣伝をさせていただくと…、ゲームアプリをリリースしました。
以前から準備していてたまたまこのタイミングになったんでしょうが、この大変な時期に長閑なゲームアプリ配信した劇団にいることに震えています。
Androidはこちら  iOSはこちら
無料で遊べます。私のオススメは「もぐらリスニングたたき」です。

次のバトンは株式会社tattの代表、小島達子さんです。
札幌で活躍されるプロデューサーであり、俳優であり、デザイナーです。
初めて達子さんの名前を知ったのは…、正直思い出せない…。私が劇団を始めた2000年前後の札幌は、同世代の劇団がとても元気な時期で、話題になる公演にはいつも達子さんの名前がありました。イナダ組やTEAM-NACSの舞台で客席を沸かせるコメディエンヌが、実はそのチラシやパンフレットもデザインしていることに気づいた時は驚いたものです。達子さんはその後プロデュース業にも進出、持ち前の度量の大きさと粘り強い交渉力を活かして、自身の劇団・イレブンナインでは動員も含めて大きな成果を挙げています。私には札幌での活動を諦めてしまった負い目があることもあって、演劇、劇団に関わる自分の立場を増やしながら、結果を出していく達子さんの姿を心から尊敬しています。
さて、そんな達子さんへの質問は、「もらって嬉しかった差し入れベスト3」でお願いします。