斎藤努 さん

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はじめまして、斎藤努(saito tsutomu)と申します。ご紹介いただいた啓さんとはここ数年ON-PAM理事として一緒に活動させていただいております。同じ名字なのでたまに親族かと思われている(特に海外のProducerなど)ようですが、特に血縁関係はなく…。微妙に使っている漢字も違うので、表記で混乱させる事もあり申し訳なく思っています。

せっかくの機会なので、舞台とのなれ初めからお話したいと思います。僕が初めて舞台を自分の意志で観に行ったのは高校3年の時でした(小さい頃に親に連れられて親子劇場などを観た事はありました)。ちょっと縁があって、高知県高校演劇コンクールに出場している母校の作品を観に行きました。その時、いつもは口数も少なく、少し根暗な後輩が舞台上ではとても面白く観客をゲラゲラ笑わせていたのがとても印象的だったのを覚えています。
その後、大阪府立大学に入学し、同級生に誘われ演劇部の見学に行き「飲み会が面白い」という部分に惹かれて入部しました(この時点で動機がおかしい)。先輩達のやっていた真面目な舞台に馴染めず(笑)、同期と共に劇団名を変更(劇団トラブルド☆キッズから劇団123という名前に、現在も存続)し、吉本新喜劇のような笑い重視の創作を行いました。また大学では役者とスタッフを掛け持ちする事が多かったので、僕はお金の計算が得意という事で制作を掛け持ちする事に。先輩達が培ってきたルーティン作業に疑問を持ち、フライヤーの裏面にある小口広告(近所の飲食店などの宣伝スペースを取り、広告料1万円くらいをもらっていたが、それがあるゆえにダサい感じがしていた)をやめ、代わりに「パトロンの会」という組織を作り、近所のお店から寄付を集める事にしたり(結果的に小口広告より売り上げた)。今でも僕が制作やマネジメントする際に「常識を疑う」というのはこの頃に培った気がします。
部活を引退する時期にNODA・MAP「right eye」を観劇。同期と共に衝撃を受け、あんな作品が創れるならもっと真剣に取り組もう!と大学外でも活動を行う事に。そして僕は劇団☆新感線の若手の方々が作ったAfro13というユニットにも所属し、途中からは役者を辞め、舞台制作を生業とするようになりました。
大阪では小林みほさん(現KUNIO制作)、笠原希さん(現righteye代表)などと一緒にお仕事をさせていただき、現場を見ながら技術を盗む、という感じで制作能力を高め、black chamberや精華小劇場という「創作の場」にも関わらせていただき、様々な経験を積ませてもらいました。
2009年からは拠点を東京に移し、舞台制作会社ゴーチ・ブラザーズに所属。主に柿喰う客の制作や中屋敷法仁氏のマネジメントを担当。国内はもちろん、海外公演や海外アーティストとの創作にも関わり、自分の視野が一気に広がった気がします。また2013年から2年間アーツカウンシル東京の調査員として都内の様々なアートプロジェクトを視察し、他ジャンルの調査員と議論をし、それらに関して報告書を書いたりすることで、これまであまり関わる事のなかった音楽、美術、伝統芸能などに関しても知識を深める事ができました。
そして2015年7月に生まれ故郷である高知にUターンし、2年間は東京や様々な地域にてフリーランスのプロデューサーとして活動し、今年(2017年)5月より現在の職場である高知県文化財団(アーツカウンシル担当)にて働いています。

長々と自分の半生を振り返ったところで啓さんの質問について考えてみようと思います。

「演劇制作の仕事で、東京と地方を二項対立的に分けて考えることは有益だと思いますか?あるとすれば、どんな局面でしょうか?」

見た瞬間に難問すぎて固まりました…さらに「これは今の僕にはとても答えにくい質問だなぁ」とも思いました(笑)というのも大阪、東京、高知と拠点を移してきたこともあり、東京とどこを二項対立にするかによって答えは変わると思っているからです。
具体的に言うと、僕が大阪で活動をしていた2000年~2008年くらいは東京と大阪の二項対立は有益だったと思います。ちょうど関西小劇場ブームの名残もあり、関西から東京に攻め込む!東京公演した劇団は格が上がる!という雰囲気もあり、必然的に非東京な作品が多かった気がします。僕が関わっていたAfro13も関西弁を使ったセリフが多く、東京にいる関西出身者にその部分も含めて受け入れてもらっていたと思います。
が、現在僕が拠点にしている高知は二項対立にする事にあまり意味がない気がします。というより高知の舞台芸術は東京や大阪などと二項対立にするほどベースが同じではない、と思っており(鳥の劇場やSPACのような劇団がある地域は二項対立的に考えるほうが有益かもしれませんが)。感覚的に言うと東京と鳥取なら読売ジャイアンツと福岡ソフトバンクというような状況を作れそうですが、東京と高知ではプロ野球と四国アイランドリーグという構図になるのでは?という感じでしょうか?(いや、決して四国アイランドリーグを悪く言っているのではなく、同じ野球だけど目的や魅力はまた違うところにあるのでは?という思いです)
またここ数年は各地域に専門性を持った組織も増えつつあるので、東京との二項対立にするよりは様々な地域を視野に入れて、福岡と何か企画を創るとか、大分のアーティストを招聘するとかこれまでとは違った形で活動したほうがメリットも大きい気がしています。
高知にも演劇活動をしている方々がたくさんいるので、現在の活動を尊重しながら、高知県文化財団としてどのような支援ができるか考えていこうと思っているところです。できればスポーツのように高知から世界に羽ばたく人材が生まれたらいいなと思っています(もちろん、演劇以外にも様々なジャンルで)。そのためにもクオリティの高い作品に1つでも多く出会える環境や人材作りが大事なのかな、と。1年、2年では成し遂げる事はできないでしょうが、10年、20年、僕が死んでからも文化芸術によって豊かに暮らせる場になるよう今は地道に種蒔きをしていければと思っています。

では次の執筆者をご紹介します。舞台芸術制作者にむけた人材育成と労働環境整備のためのNPO法人Explat理事長であり、様々な肩書きを持つ植松侑子さんです。彼女も実は愛媛の出身で僕と同じく四国民なので、今後四国を盛り上げるために色々とお力を借りたいと思っています。質問は「舞台芸術と適当な距離感で付き合うコツを教えてください?」にしたいと思います。色んな仕事をしながらも絶妙な距離感で舞台芸術に関わっている感じがあってすごいなぁといつも思っているので、そのコツ?生き方?みたいなものを簡単でいいので、お聞きできればと思っております。