オレンヂスタ
オレンヂスタの佐和ぐりこさんとニノキノコスターさん。とても繊細に周囲に気を使ってくれるお二人でした。また、取材を通じ、二人三脚の強い絆を感じました。今回はできるだけインタビュー時の状況をそのまま残しています。
本番だけ北島マヤぶらないと

お二人が演劇を始めたきっかけを教えてください。

■ニノキノコスターさん(以下ニノ):最初は幼稚園のお遊戯会。白雪姫は可愛い女の子がやるけど、魔女のお婆さん役は皆やりたがらない。けど目立つでしょ。他の子が変な棒読みをする中、自分も稽古中は大人しくしてるけど、本番当日だけ熱演して先生に引かれるという(笑)。

本番だけ。

■ニノ:友達にからかわれるじゃないですか。「わたしちょっとうまいんだよ」ぐらいにしておいて本番だけ北島マヤぶらないと。……ヤな奴だな(笑)。

周りの反応はどうでしたか。

■ニノ:小6で一揆モノをやって。ヅラ被って甚平着て、斬首される農民の一人を熱演。本番終わってハけたら裏に彼氏がいて……無言親指立てる彼氏。「わたし頑張ったよ!(ハァト)」……ヅラで!小6で!女で!いま思うとホンマ絵が馬鹿馬鹿しいわー。まぁ周りは「あの人だしね」みたいな感じで。自分の中で大きく変わったのは、5歳から15歳までやってたクラシックバレエの『くるみ割り人形』。パーティーが開かれて、妹がもらった人形をお兄ちゃんが奪いとって捨てたり、芝居的な振り付けが多い。そこで身体表現が芝居に繋がったというか。

そこから芝居寄りになっていく。

■ニノ:目立ちたい、だけじゃなく気持ちが変われば身体も変わる、身体が変われば気持ちも変わるというのが分かって、バレエより芝居のがおもしれぇ、と。中学から演劇部に入りたかったんだけど無くて。漫画とか描いてる内に「高校では医師免許を持った漫画家になろう」と化学部に入ったけど、文化祭で演劇やったら、演劇部の先輩から「キミ面白いから絶対演劇やりな!」と拉致されいつの間にか。

化学部はどうなったのでしょうか。

■ニノ:結局1回も行ってないです(笑)。その後、演劇部にいた現・オイスターズの河村梓という先輩から、浪人中に「名古屋大学劇団新生の次の公演、手伝わない」と誘われいつの間にか団員に。あそこは1回参加すると永久団員なんですよ。騙されました(笑)。新生では必ずスタッフも割り振られるので、制作と役者やってました。演劇始めるキッカケは拉致。

ちゃんとやってみてえな

ではぐりこさんのきっかけをお願いします。

■佐和ぐりこさん(以下佐和):わたしは演劇始めたのは大学からですね。大学に入る前から演劇部に入ろうと決めていて。

それまでに演劇に関わったことは全くなかった。

■佐和:高校の文化祭の出し物で演劇をやって、『ロミオとジュリエット』だったんですけど、何故かやる気満々で脚本演出的なことを。中学の時演劇部あったんですけど、全然興味なかったのに、突然。でも高校に演劇部が無くて学芸会的なノリで。で、ちゃんとやってみてえなと思い、大学入ったら演劇部に入ろうと。そして名大に入って新生に。

その頃既にニノさんが居た。

■ニノ:直接の先輩後輩です。

ニノさんを見た時の最初の印象はどうでしたか。

■佐和:入学手続きの時に勧誘があって、凄い新入生勧誘に頑張ってるな、と。

■ニノ:それまで新生は団員確保にあまり力を入れてなくて。努力しない内に演劇人口も減り、うちの代は3人だけ。で、ちゃんとした団員募集を企画立ててやっていこうと。そしたら大成功し過ぎて十何人入った(笑)。

■佐和:わたしの代は人数多かった(笑)。

自分が作演をやるなら絶対必要だなと

そこから二人でオレンヂスタを始めるきっかけを教えてください。

■ニノ:新生では必ずスタッフもやるんで皆にやりたい部署を聞いたら、制作って。

■佐和:そもそも制作っていうのがあんまりよく分からなかったんですが、兄が広告会社にいたり、絵とか描くのが好きだったりで、「チラシを作る部署だよ」と言われたので、「あ、チラシ作りたい」と。それで一緒に制作やってました。制作の先輩と後輩として公演毎に一緒にやってて。

■ニノ:その後、新生で初めて作演やったんです。『ノーナイ・パンクス』って奴なんですけど。そん時舞台監督やってもらって。一番いいのが、今でもそうなんですけど戯曲理解が早い。台本がうまくいかない時「ここってこういうこと?」って意見とか疑問出しくれて。「書いてる本人も気付かんかった!」みたいな。そこから40ページくらい進んだり(笑)。作演出と同じ目線からヒントをくれるので、自分が作演をやるなら絶対必要だなと。

■佐和:『新生プレゼンツ』っていうのがあって、新生って1、2年の時しか活動しないので、卒業直前の3、4年がちょっと時間が出来たときに集まってやる公演で。その時に『新生プレゼンツ・オレンヂスタ』の『妄想と宵闇の隙間縫うはロッキンホースエレグラン』を。私がニノに「やりましょうよ」とけしかけて、強引に小屋を取ってセッティングしました。

■ニノ:その頃から話してたよね。「二人でオレンヂスタだね」って。

そこから次回公演まで時間が空きましたが、その間はなにをしていたのでしょうか。

■佐和:その次の年には2人とも就職してるんですね。ニノも大学中退後フリーターだったけど就職する。そこで二人暮らしするかみたいなノリに。

■ニノ:単純に、新生プレゼンツの公演でクタクタになったし、ちゃんと社会人活動をしようということで。

■佐和:おかげさまでエレグラはお客さんも入り評判も良く、七ツ寺の二村さんも「良かったよ」と言ってくれて。でもその時期はまず仕事を頑張ろうと。

■ニノ:大体いつもぐりこが「芝居やろうよ、やりたいよ」と言ってきて、「え〜?んじゃやる?」って。『Re:旗揚げ公演』の時も「芝居やりたい〜」ってジタジタし始めて。一応新生プレゼンツがユニットだったので、劇団として再旗揚げすることに。

■佐和:休息期間ではありましたが、Re:旗揚げ公演の構想も彼女が会社で働いてる中で生まれたものなので、ムダではない時期だったと思っています。

これはわたしにやれってことか!

これまでに影響を受けた作品、人物がいれば教えてください。

■ニノ:デス電所の竹内佑さん。高校の時、竹内さんが地区大会に行った『アルタード・ステゐツ』という作品を見て。「なんでこれを高校生が書けるんだ!すげぇ!」と。その後、NGK(名古屋学生劇団協会)で2都市公演をやることになり、竹内さんが候補に。皆で大阪まで観に行ったんですよ。多分、その頃の名古屋には無かった。エログロもポップさもスタイリッシュさも話の構成の緻密さも全てが無かった。それからNGKの二都市合同公演『彼女の愛した百鬼夜行』で台本渡された時に、登場人物の中にマーシャ、オリガ、市川って奴がいた。「これはわたしにやれってことか!」と。

■佐和:本名『市川』なので(笑)。

■ニノ:あとで竹内さんに「ちげーよ」って釘刺されたけど(笑)。そん時の経験が今の演出にも影響してるし台本の構成、モチーフ、作家面でも勉強させてもらって。最近はTwitterとかでウジウジしてると「お前なあ、そういうこと言っちゃあ駄目だろお」とか。人生の大先輩ですわ。ホント。

ぐりこさんは。

■佐和:そんなにいないんですけど、学生の時に演出させていただいた鈴江敏郎さんとか。

■ニノ:まさかの会話劇。

■佐和:あと『五反田団』とか。なんでオレンヂスタやってるんだろう(笑)。あとはクドカンが好きです。ドラマとか。それもある程度演劇を始めたきっかけになったと思います。でも影響を受けたというと、ニノキノコスター。この人がいないとやっていないですから。

■ニノ:いい話だ……。

かたくちいわし

芸名の由来を教えてください。学生時代は本名でしたよね。

■ニノ:そうですね。新生プレゼンツ・オレンヂスタの時に芸名にしました。高校の時初めて書いて文化祭で大受けした台本に『ニーノ』っていうのがいて、自分で演じてたんですけど。その後チャットに出入りするようになり、同じ本名の方はいたので、ニーノって名乗っていたらいつしか短くなり。宣伝美術をやる時芸名を付けようと。ちょうどキノコカットがマイブームだったので、『にのきのこ』って。ところが画数を調べたらあまり良くなかった。9画は芸術的に良い画数だけど、運が良くないし孤独。演出家たるもの人とうまく調和し、人が集まるようになりたいと思って。その画数が15画。あと6画足すのに好きな単語にしようと。星柄が好きで、スターにしたらぴったりあった。由来はありません。画数。

■佐和:マリオみたいですよね。

ぐりこさんの芸名の由来を教えてください。

■佐和:わたしはRe:旗揚げの時に芸名付けたんです。本名がカクカクしてるので、やわらかい印象にしたくて。

■ニノ:最終候補に残ったのが『かたくちいわし』。全部平仮名。

■佐和:何人かに意見聞いたんですけど、皆かたくちいわし。

なんでそうしなかったんですか。

■佐和:ないな、って思って(笑)。

■ニノ:色々考えたんですよ。インパクトに残る、彼女っぽい名前にしたい。でも圧倒的な却下ですよ。

■佐和:後でその話を団員にしたら、「かたくちいわしは面白いけど、『主宰:かたくちいわし』は嫌だよね」って。

■ニノ:全くだ。

企業も劇団も変わんないですけどね

演出する時に気を付けていることを教えてください。

■ニノ:演出というものはまだ計りかねているので、人間として一番大事にしたいのは、参加する人も、お客さんも、楽しかったとか、そういうものを感じてもらう。稽古場の雰囲気作りには凄い気を使う。客演さんが多いので、その方たちの良いところをキャスティングの時点で、この人がこれをやったら面白いちゃうというのを。また、音の使い方を最初に話して、それに合わせて役者をどう乗せていくか。気を使っているのはスタッフワークと、役者さんたちが「嫌な公演だったな」と思わず、帰っていただくこと。

一緒に活動するうえで相手に持っていて欲しいものはありますか。

■佐和:わたしは作演じゃないので全般的な話になりますが、意見を言ってくれるというか、自分なりのこだわりがある。より芝居を良くしていこうとするこだわりがある人。仕事だと、とりあえずこなしておけば良いって人もいるんでしょうけど、いま仕事と二足の草鞋でやっているので、そういう形でやられるとやりづらいなと思います。あと、演出の意見もありますが、役者さんにしてもスタッフさんにしても、演出にこうしたほうが良いというのを考えている人。

■ニノ:企業も劇団も変わんないですけどね。ビジョンを理解して、その為に何したらよいかは基本的なことで、それを踏まえた上で。おもんない奴は嫌ですよ。おもんないというのは笑いのセンスとかそういうことじゃなくて、これどうだそれどうだって創意工夫できん奴はおもんないんですよ。その場で自己満足してまう。

■佐和:広い意味でエンターテイメント性なのかな。この人にこう言ったら喜ぶかなとか、広い意味でのサービス精神。

■ニノ:うちはサービス精神のみで成り立っているという。

■佐和:嗅覚がいいのか、いつもそういう良い人に恵まれているので。一緒にやりたいなって人ばかり集まってくれる。

■ニノ:ご縁ばかりです。

企画から組み立てるんですよ

芝居に関わるうえでそれぞれの特徴はありますか。

■佐和:ニノは企画性から考えます。名古屋で大阪の竹内さんに目を付けたとか、色々縁もあったんでしょうけど、そこになかなか目を付けない。それを名古屋に持って来ているというのは独自性だと思います。

■ニノ:自分はプロデューサー気質なので企画から組み立てるんですよ。本来プロデューサーがやること、今回はこういう主旨でいきましょうというものも。『恋愛耐湿』はもともと恋愛戯曲やりたいと思ってたんですけど、男女逆にしたら面白いんちゃう、とか。第2回公演の時はこれから先を見据えて、短編をやってみようと。ただそのままやっても面白くない。なのでアフターイベントと本編が繋がっているという企画を考え、そういう芝居は他にあるだろうか、自分の中ではない、という感じで。構成の範囲かもしれないけど本来はプロデューサーの仕事ですから。そういうとこからやるっていうのは確かに差別化できてるかも。

■佐和:普通プロデューサーってアフタートークでこういう劇作家を連れてきましょうとか、作品とは別のところになりがちなんですけど、作演がやることで作品に直結できる。それはうちの強みだし、劇団の強み。

■ニノ:反対にぐりこはプロデューサーなんですけど、作演に近い。本を書く時にも意見をくれるし、作品作りに関わるという仕事をきちんと出来ている。こんな劇団付きのプロデューサーは中々いない。それは差別化できてると思う。

■佐和:わたしは作品作りもやってますというところでプロデューサーを。制作専門ではなく。作品作りを見ながら宣伝活動を。

こう聞くと、オレンヂスタは二人一組ですね。

■ニノ:本当そうですね。

最高に最低なハッピーをあなたに

演劇の面白さ、魅力をどこに感じていますか。また辛いところがあれば教えてください。

■ニノ:いつもターゲットは普通の人。普段演劇に触れていない友人達が「目の前で役者が動いている」と言う。だからこそ笑えるし泣ける。それは絶対あると思う。ライブだから。目の前で人が動いて泣いて感情を揺り動かされてって日常でそんなにない。その時に人間の根源的なものが出ていると思う。自分は世界中の人間を救おうとは思ってないけど、いま身近な人が自分の芝居を観て、なんか頑張ろうと。なんかすっきりした、なんか楽しかった、明日も頑張ろうと日常に持って帰ってくれたらそれほど嬉しいことはない。

■佐和:わたしは漫画書いたり小説書いたりとかそんなばっかでしたけど、ひとりでやるじゃないですか。でも演劇は集団じゃないとできない。それが面白いところでもあるし、辛いところでもあるなあと(笑)。

■ニノ:やってて辛いのは台本が書けない時。ほんとに辛いですよ。そのせいで会社を2回も休職しましたもん。人と関わる時にコミュニケーションを取れないというのはない。ありがたいことに。単純に世界の中で自分がどういうものを作っていけるのか、語彙の無さやスキルの無さが辛い。ガリガリ書ける方いるじゃないですか。そういう方が羨ましい。

■佐和:でもやる側としては、生みの苦しみがあるから面白い。ひょいひょいって出来ちゃったら「大丈夫だったかな今回」って(笑)。

オレンヂスタの見所を教えてください。

■ニノ:広報っぽい感じでどうぞ。

■佐和:スローガンとして「最高に最低なハッピーをあなたに」ってのがあって。それが劇団として一番やりたいこと。観て、揺さぶられる。人が大量に死んだり、生ものが飛び散ったり、生のインパクトで、心臓をザクザク刺されたようなショックを与えるんだけど、でも「明日頑張ろう」と思えるような。ハッピーになって帰ってくれたらなって思います。

■ニノ:エロとか笑いとかグロ。そこもきっちりやりたいですし、良かったと言われるようになりたいですけど、最終的にこれは付加価値でしかないから。あくまで顧客サービス。本質的なところはハッピーな物作りをしているとこです。ちっともハッピーに見えないかもしれんけど(笑)。

本日はありがとうございました。

■ニノ:すいません、ありがとうございました。

■佐和:ありがとうございました。