泉寛介さん×くるみざわしんさん
AAFリージョナル・シアター2014にて夏目漱石の『坊ちゃん』をそれぞれ演出される予定の、baghdad cafe'の泉寛介さんと、光の領地のくるみざわしんさん。両者共柔らかい雰囲気を持ちながらも、演劇のアプローチは全く異なるお二人。非常に和やかな雰囲気でお話をお伺いすることが出来ました。

安心したというか

最初にお二人がお会いした時のそれぞれの第一印象を教えてください。

■泉寛介さん(以下泉):この企画で初めて会ったのですが、お名前は存じていました。凄い人が来るんだろうなと(笑)。最初凄い作家っぽいと思いました。雰囲気とか顔とか髪型とか。

■くるみざわしん(以下くるみざわ):背が高くてすっきりした方だなと思いました。演劇の方って色々難しい方がいるじゃないですか。でもそういう感じじゃなかったです。安心したというか(笑)。

■泉:それはあります。怖い人が来たらどうしようって(笑)。

20秒くらい寝てるだけ

これまでに影響を受けた作品や人物がいれば教えてください。

■泉:演劇を始めるきっかけになったのはコントです。夜中にやっていた芸人さんのコント番組です。大学くらいの時に知り合いの紹介で演劇を始めているんですけど、今思えばそれまでにも演劇的なことをやっていたなって。教室の後ろでコントのコピーをしていました。吉本だったり松竹だったり、夜中に小劇場の方が出ている番組があったんですけど、吹越さんがロボコップの真似する奴とか、それの真似をしていました。芸人では野性爆弾が好きですね。衝撃を受けました。20秒くらい寝てるだけっていうのをやっていて。ストーリーがあって、殺されて、その後寝てるだけなんです。20秒くらいずっとなんにもしていないんです。そういうのをやっていいんやって思いました。たまに突飛な演出をする時にパクったりします。

■くるみざわ:ぼくは大学の寮に入って無理矢理演劇をやらされたんですよ。大学ではしきたりがあって、新入生に演劇をさせるというものがあったんです。そこで無理矢理『第三舞台』をやらされたんです。やらされたんですけど、それが凄く面白くって、しばらくは鴻上尚史の第三舞台の作品を観てましたね。段々離れてはいったんですけど、80年代の空気に触れることが出来た。あとは竹内敏晴さんの演劇レッスンに通ったりしましたね。ぼくは37歳から本格的に演劇を始めたんですけど、つかこうへいさんの戯曲塾に2年間、その後は北村想さんのところにも。演劇を浴びる為に全て自分から飛び込んで行きました。

舞台上に漱石が浮かび上がる

それぞれの演出の特徴があれば教えてください。

■泉:まとめるとメタフィクションになるのかな。今回『坊ちゃん』をやることになったのですが、ぼくは詳しく知らなかったので、書評的なものも読みましたが、ピンとくるものが無かったので、それは捨てて、坊ちゃんの世界観を現代の、しかも演劇人に結びつける作業をしたかった。その中で知り合いにどんどんインタビューしてそれらをずっとビデオに撮り続けていたんですけど、それが非常に面白いなと。大概知らないんです。演劇人に坊ちゃんのことを聞いている状態。それは今ぼくがやろうとしていることに近いのではないかと。それを舞台上に持っていこうと。今回は坊ちゃんという物語を3つの位相に分けたんです。『物語』的、内容的なもの。この作品自体が一人称での語りなので、『作家』的な部分。あとはそれを観ている人。『批評の目』。その3つに分けて、それを同時に上映しつつ、観ている人が更にそれをビデオカメラで撮影したり、ぼくが撮っている動画をそこで映したりする。そうすると坊ちゃんが現在の演劇になるんじゃないかなという、凄くややこしいんですけど。観るというよりは感じる感じ。不思議なんだけど坊ちゃんの内容も分かるし、坊ちゃんではないけど、現在の演劇人を観ているような、グラグラする感じ。日常的なものから精神性なところまで飛んじゃって収めるというのを普段からやるので。でも今回の手法は初めて。毎回手法は変えています。

■くるみざわ:今回は構成と演出を両方出来るので、坊ちゃんのどこを選ぶかに作家性が出ると思うんです。坊ちゃんを通じて、夏目漱石という存在が浮かび上がるような、そういう考えでいくつかの場面をピックアップしています。それを通して観る事で舞台上に上がってくる坊ちゃんが段々漱石と重なってきて、最終的に舞台上に漱石が浮かび上がるような構成にしています。演出上は1人2役、3役とかを多用したりとか、1人の人物を2人の人、3人の人が演じたり、そういう方法を通じて、1人の人間にいくつもの要素があるのを表現しています。他人同士でも似た所があるというのを表せたらなと思います。今回は四方囲みになっていて、普段だったらプロセミアムで行うのですが、今回はセンターステージなので、役者の身体とか声とかをダイレクトに観客に味わって貰えるように考えています。

止めてくれる人がいいです

一緒に活動する上で持っていて欲しい能力や要素があれば教えてください。

■泉:結構ややこしいことになっていっちゃうんです。簡単に説明するのが下手です。上手く出来ない。どんどん考えることもコアになっていくというか。なので、それを止めてくれる人がいいです(笑)。それを分からないよと言ってくれると、どこまで戻れば分かるって出来るので。時間が経つにつれもっと奥に行きたくなっちゃうので、よく劇団員には「ここまでは分かるけどここは分からない」とか「冒頭から分からない」とか言われる。それがあるとお客さんにうまく対応出来る。役者さんがまず一番のお客さんですから。なんでも受け入れられちゃったら困るので。批評の目というか、そういうのがあって欲しい。判断が出来る人ですね。ドラマトゥルクであったりするかもしれませんし。現状がどこにあるのか場所を分からせてくれる人。

■くるみざわ:ぼくはね、団体名が『光の領地』って言うんですけど、一人だけなんです。最初に名前を名乗るようになった時に、新聞記者さんの取材を受けたりしたんですよ。記者さんの取材を受けていると新しい発想が浮かんでくるんです。それでこれって劇団活動だなって思ったんです。どんな作品でとか、どんな表現をしたいですというのを話し合う場所。その時は勝手に相手をぼくの劇団員だと考えることにしたんですよ。それも上演活動だし、執筆活動だし。そういうコンセプトで劇団活動をやろうと思ったんです。その瞬間、その人は劇団員。ある場合は、お客さんでも良い評価を伝えてくれたりして、話し合いが出来れば、その人は創作活動に協力してくれている訳です。なるべくそういう刺激をくれる人を知っておく。その人を知っていることが劇団活動だなと思っています。取材もそうだし、演劇と関係がない民俗学だとか、詩の集まりであるとか、打上げで話したりするじゃないですか。かなり面白いことがある。そういう風に考えてやっています。一緒にやりたいのはそういう人です。なのでいまこの瞬間も密かに上演が行われているんです。

では今この瞬間我々も劇団員になっているかもしれないですね。

■泉:一瞬だけですけど(笑)。面白いですね。

■くるみざわ:そういう発想なんです。

脳内上演よりも作った満足の方がでかいんですよね

今後の活動でそれぞれやってみたいこと等があれば教えてください。

■泉:今回もそうなんですけど、ちゃんとしたやつをやりたい。何がちゃんとしているのか分からないですけど、今回は漱石という強固な作品をやっているのが何かしっくり来ていて、普段も強固にしようとはしているんですけど、ゴテゴテしちゃう。めっちゃ磨いたら奇麗な玉になるような、そんな突出した作品を一度じっくりやってみたいと思います。それが演劇かどうかは分からない。

■くるみざわ:具体的には公演予定があるんですけど、どういう風に決まって行ったかというと、ぼくは劇作がしたいから、合評会に出て読んで貰って批評を貰ってということをやってたんですけど、たまたまその仲間で「演出するから書いてみない」と言われる方が出始めたんですよ。ぼくは戯曲を書く事が中心なので、それをやりたいと言ってくれる人が出て来てくれることだと思うんです。でもここ数年は公演しなくても、話をしたりとか書いて満足していて。本を書くと頭の中で上演するじゃないですか。脳内上演で満足していたんです。「結構良いの上演出来たな」とか(笑)。でも脳内上演よりも作った満足の方がでかいんですよね。ちょっとそっちに踏み出そうかなと思っています。脳内だけじゃなくて物理的に。お客さんにも観て貰って。それには色々制作とか宣伝とか実利的なものをクリアしなくちゃいけないので、それをどうしようかなと思っています。

ありがとうございました。

■泉・くるみざわ:ありがとうございました。