吉本新喜劇みたいなことをしたい
大熊さんが演劇を始める最初にきっかけを教えてください。
■大熊隆太郎さん(以下大熊):最初は演劇をしたいということは全然なく、人を楽しませるのが好きだったんです。それで吉本新喜劇みたいなことをしたいなと思い高校で演劇部に入ったんですが、思っていたのと違っていました。でも高学年になるにつれて幅を利かせられるじゃないですか。段々と自分たちが面白いと思うことが出来るようになって。そこでお笑いだけじゃないんだなって思い始めたのが最初でした。今は俳優以外のことも多いので、スタンスはだいぶ変わって来てしまいましたが。
その演劇部ではどのような芝居をされていたのでしょうか。
■大熊:青春ものとか等身大の高校生を描くとか。高校生がやることですし、楽しくやるのが根底にあったので、自分をプロデュースして笑いを取っていきました。自己プロデュース能力は高校時代から徐々に学びました。
そこから『壱劇屋』立ち上げの経緯を教えてください。
■大熊:高校3年のコンクールの近畿大会で最優秀を頂いたんです。全国大会の切符を手に入れた。でも出られるのは来年の夏なんです。その前に卒業しちゃうので。それでしゃあないから自分達だけでやろうかってなったのが壱劇屋です。それがズルズルと。なので公には『2008年』からとなっているんですけど、本当は『2005年』からやっています。その時はぼくが代表では無く、コンクールの時に作演出をやっていた人で。でも2008年に「もうやらない」となってしまったのでぼくが座長になりました。だから公式には2008年となっているんです。
壱劇屋の名前の由来を教えてください。
■大熊:卒業公演だったんですけど、その場限りの劇団名を付けるみたいな地域の風習があって。だから正直適当なんです。クジを作ってランダムに選ばれたのが壱劇屋でした。でもそれで10年以上やっています。
自分だけには分かるみたいな
これまでにもっとも影響を受けた人物や作品があれば教えてください。
■大熊:これはもう『ジョジョの奇妙な冒険』一択です。今もお手本にしています。熱量とクールさ、サスペンスもあるし、オリジナリティもある。とにかく人を惹きつけるものがある作品だと思います。それに劇的じゃないですか。これだけ世間的にも売れていながら、「わたしだけのジョジョ」みたいに半ば思えてしまう。自分だけには分かるみたいな。なんかそういうものが作れたらいいなあと。トリッキーであり、王道である。凄くいい塩梅。
ちなみに何部が好きですか。
■大熊:それは究極の質問ですね。敢えて言うならぼくは6部が好きです。これは正直甲乙付けがたい。でも6部って人気無いじゃないですか。訳が分からない。でもその訳の分からなさを飛び越えたドラマとかスケールが一番大きいと思います。
ちょっと見直した
作品のアイデアはどのように生まれますか。
■大熊:日常からなんですけど、ぼくは。例えば駅のホームとかで向こうから電車がやってくるような感覚を舞台で作ったらどうなるんだろうとか。最初は構図から入り、そこから想像して飛躍させていきます。他には全く関係の無いアイデアを無理やり繋げてみるとか。それと、台本を書くのが凄く苦手なんですね。めっちゃ苦手で。自分で書いた台詞が面白いのかどうか。これが最上級の言葉とはどうしても思えない。こんな台詞の何がいいんだろうと思いがちなんです。なので最近は台詞にするより、俳優が言うことだったり、喋らなかったりする方が面白いんじゃないかと。それでしばらくは書くことに対してどうなんだろうと思ったんですが、今回大阪で『SQUARE AREA』を再演してみて、「3年前の自分、めっちゃ台詞書いてたな」と。びっくりしたんです。台詞臭い台詞を書いてたなと。でもそれを皆でやってみたら意外と面白かったんです。それでちょっと見直したというか。台詞のある芝居を。これはこれでいいんじゃないかと。なので書く気持ちがちょっとまた芽生えました。
演出をする上で特に重視していることを教えてください。
■大熊:凄く大きく言うとバランスです。絵のバランスとか、お客さんと役者の距離感。あとは自分の面白いと思うことと、お客さんの面白いと思うこと。人によっては良くないという人もいると思うんですけど、うちの劇団の場合そこは図った方がいいかなあと。いつも『中間』と言っているんですけど、芸術性と大衆性の中間だとか、若手とベテランの中間とか、大阪と京都の中間でやってますとか、台詞芝居とパフォーマンス芝居の中間とか。その色々な所の良い所取りをした上での中間ですね。
変な意味でストイック
演出家にとって一番必要な能力はなんだと思いますか。
■大熊:人を見れるかどうかですね。常に人がやるので。うちの稽古場って結構明るいというか和気藹々としてるんですけど、変な意味でストイックというか。ずっとニコニコしてるんですけど、異常な時間稽古したり。こういう風にやるんだという共通認識が劇団員の中で出来ているんだと思います。客演さんもそういう人を重視しています。全然進展しないようなことも付き合ってくれる方とか。凄い上手い人も好きですけど、変な人を上手く落とし込めていくのが好きですね。すっごい下手くそでも面白い人がいるので、そういう人を上手く使いたい。
一緒に活動する上で相手に持っていて欲しい要素はありますか。
■大熊:ぼくは作品を作ることに対する興味もあるんですけど、今は劇団の活動を進めていったり、規模を拡大するのが楽しい時期でして。なので演劇だけをやるのでは無く、カンパニーを膨らませていける頭を持っている人がいいですね。年に12回も出来たりする訳ではないので、人前に触れる機会もそんなにない。もし劇団内で、一人一人にプロデュース能力があると面白い集団に見えるかなあって。
宝塚みたいになったら面白いかな
演劇の面白さや魅力をどこに感じていますか。
■大熊:一言で言うとなんでもありというか。放送コードとかも小劇場演劇は有って無いようなものじゃないですか。偏った思想があってもいいし、別に面白くないものをやってもよし。自分の庭で自分のものをやる。やればやるほど自分のことを観せられる。手っ取り早く自分を表現出来るものが演劇なのかなって。
今後やってみたいことや目標はありますか。
■大熊:近しい所で言うと、年に1回、東京名古屋大阪を回るツアーはやっていきたい。これを続けていきたい。それとこないだ新人が増えまして総勢15人いるんです。なんかこうめっちゃ増えていって、宝塚みたいになったら面白いかな。まだ準劇団員ですけど。ゆくゆくはちゃんとした劇団員になってくれたらいいなと。リーグ戦とか出来たら。あとは拠点を関西のままどこまで行けるかですね。関西で動員も安定して続けている劇団は数える程なので、その中のひとつに。更に言うともっと行けるといいなと。
新人育成の為のメソッドを模索したりはしているのでしょうか。
■大熊:うちは古くからある劇団のスタイルを取っているので、一人に一人先輩がついて、仕事を教えています。そうやって企画とか出来るようになればなあと思います。俳優として育てることもあるんですけど、それよりもむしろ構成員として叩き込むというのはありますね。
他に何か言い足りないことがありましたら。
■大熊:一昨日大阪公演が終わりまして。やっと念願の1000人動員を達成しました。ありがたいことに何度もリピートして頂ける作品になりました。3年前にもやっているんですけど、その時から評判は良くて。これは今後も大事にしていきたい代表作になりました。
ありがとうございました。
■大熊:ありがとうございました。