村川拓也さん
京都の演出家、村川拓也さん。ひとつひとつの質問に対して、非常に丁寧に時間を掛けて答えて頂きました。時折冷めたような発言がありつつも、その根底には作品作りに対する強い情熱が垣間見えました。とても面白い視点を持った方だと感じました。
単純に格好良かったですね

村川さんが演劇を始めたきっかけを教えてください。

■村川拓也さん(以下村川):京都造形芸術大学というところに入って、そこで初めて演劇に触れたんです。その頃は映像舞台芸術学科というのがあって、ぼくはそこの学科の映像コースで入学したんですけれども、まず何をやらされるかというと、日本舞踊を踊らされるんですよ。着物着て。その逆で、舞台コースで入った人はビデオカメラ持たされて、「なにか撮って来い」という感じだったんです。ぼくは演劇に関しては全く知識が無かったし、高校演劇も「なんかやってるな」ぐらいにしか思っていなかったので興味も無かったんですけど、その当時『遊園地再生事業団』の宮沢章夫さんが来られまして、その授業が面白かったんです。どういうことをやっていたのかというと、普通にいろと。普通にいていいと。俳優が。普通にいて、その普通にいる姿が面白い。いわゆる俳優ではない身体がどう面白いかということを説明して、実際に身体を動かすという授業でした。それが単純に格好良かったですね。ダサいものだと思っていたので、演劇って。宮沢さんもオシャレだったし。映像の学生ってその辺の兄ちゃんですよね。そいつらが適当な感じで演技してるのが格好良く映って。それなら出来るわと思ったのが演劇に興味を持った最初です。

現在は演出をされていますが、俳優として舞台に立たれたことはあるのでしょうか。

■村川:授業の発表公演に出ていたりはしていました。宮沢さんの演出を受けて。その他にも松田正隆さんとか太田省吾さんの授業もあったので、その時は出演者として出ていました。学生時代から映像よりも舞台作品のほうがよく作っていましたね。映像の勉強もしながらですけど。学内で公演を打ったこともあります。その頃は演出がどういうことをやるのか全く分からなかった。

外の状況にぼくが引っ張られていく

これまでにもっとも影響を受けた作品や人物がいれば教えてください。

■村川:まだ自分の作品をそんなにたくさんつくっている訳ではないので、自分が何に影響されているのかは分からない部分はありますが、大学時代の教授に佐藤真さんというドキュメンタリー映画の監督がおられたんですけど、佐藤さんの映画は凄い好きで、人の見かたとか街の見かたには影響を受けています。切り取り方ですね。演劇で言うと、大学卒業してから演出助手をしていた『地点』の三浦基さんや、松田正隆さん、『Port B』の高山明さんからも影響を受けています。地点では演劇を地で学びました。劇団というのはどういうもので、公演をするにはいくらくらいかかるか、劇場というのはこういう所だとか、日本や海外の演劇の状況とか、丸ごと勉強しました。三浦さんのところに居て一番びっくりしたのは、演出家がやりたいことをやるだけじゃなくて、演出家はこうやりたいんだけど、どうも俳優はそうじゃない、どうも今作っている世界はこうじゃない、ということに凄く正直に作っていたんです。作り手というのは自分のやりたいことしか実現しないものと思っていたんですが、ある状況やある人によってはそっちに合わせていくというか。そういう作り方をしてるというのが凄く発見で。それはドキュメンタリー映画に繋がる。こちらがどんなに意図を持って接しても、対象がそれとは違う風に振る舞ったりとか動いたりとか。結果的に作品がぼくによって生まれるというよりは、外の状況にぼくが引っ張られていくという、ドキュメンタリーの作り方に非常に似ている。演劇でもこういうことが出来るんだというのは三浦さんの演出を見ていて思ったところです。

映像編集に近いなっていうのはありますね

映像の作り方と舞台の作り方で共通すること、または違うところがあれば教えてください。

■村川:映画を作るのと舞台を作ることはぼくの中では非常に似ていて、同時期にごちゃまぜで学んでいたから違和感なく横断出来ているんだと思うんですけど、演劇というのもある素材があって、それを編集していくという考え方で作るところがあります。前作が『言葉』っていうタイトルの作品なんですけど、東日本大震災をテーマにしていて、出演者とぼくで被災地を2週間くらいかけて回ったんです。そこで出演者が見たり聞いたり感じたことをノートにメモして貰って、関西に帰ってからそのノートを開いて、そこの言葉だけで作りました。ひとつひとつの言葉が持っている情景であったりとか情報、それらを入れ替えて、並び替えていくという作り方だったんです。それは映像編集に近いなっていうのはありますね。

もっとそのまんまのものというか

ご自身の演出について、特徴や癖があれば教えてください。

■村川:あまり俳優を使わないですね、ぼくは。俳優じゃない人を舞台に上げる。俳優の技術よりは、もっとそのまんまのものというか、そのことのほうに関心があるんでしょうね。また、経験値がよほどあるプロの俳優じゃない限りは、素人とあまり変わりがない気がします。だからこれをやれば演劇が出来ると思っている人には関心がないし、そういう人と仕事をする時は、まずそれを捨てて欲しいと言っています。

演出上で重視していることはありますか。

■村川:観る人のことは考えますね。いま見えているものがどう見えているのかということは常に気にしています。今やっていることがどう受け取られているのか。

一緒に活動する上で、相手に持っていて欲しい能力や要素があれば教えてください。

■村川:作品というのは常に現実に負けると思っているんです。ぼくよりも現実のほうが面白い。そういう意識がきっちりある人とはすぐやれますね。

もしそうじゃない俳優がいた場合、どうされますか。

■村川:その場合は使わない、ですね(笑)。もしくはそれは通じないという前提でやるしかないですね。無理に分からせる必要もないので。それは人に言われて分かるものでもないと思いますので。

初めての俳優のほうがやりやすいのでしょうか。

■村川:いや、それはまだ分からなくって、今回はずっと一緒にやってた俳優は使わず、初めての人とやっているので、本番が終わった後にならないと分からないですね。今のところ稽古は凄く順調で、ちょっと気持ち悪い(笑)。順調過ぎて。でもそうも言ってられないので。

残酷な目

演劇の面白さ、魅力をどのようなところに感じていますか。

■村川:演劇が持っている本質って差別的な目であったりとか、残酷さだと思うんです。根底にそういうものがある。どんな芝居であれ、観客はある程度安心したところにいて俳優を観ている。そこには必ず差別的な要素が出ている訳で、それを隠さずにやりたいなと思っています。また、お客さんも安全なところにいると言えばいますけど、わざわざ劇場に行って自分の身体を晒しに行っているという考え方も出来るなと思いました。俳優はもちろん晒していますけど、お客さんもわざわざ自分の身体を他の人に晒している、晒し合いというか、そういう感じもするなあと思っています。

ありがとうございました。

■村川:ありがとうございました。