市原佐都子さん
東京の劇団、Qの主宰である市原佐都子さん。物静かで口数も少ない方なのですが、非常に鋭敏な感性を持ち合わせており、また、その言動には周りに流されない芯の強さを感じました。
授業の作文以外では書いたことなかったですね

市原さんが演劇を始めたきっかけを教えてください。

■市原佐都子さん(以下市原):4歳からバレエを習っていまして、中学で一回辞めたんですけど、元々勉強があまり好きじゃないということもあり、バレエの授業がある東筑紫学園という高校に入りました。そこで演劇の授業を受けるようになって、それがきっかけですね。お昼までが普通の科目で、お昼以降がコースに分かれるという感じで、演劇とかダンスをやっていました。

戯曲を書き始めたきっかけがあれば教えてください。

■市原:ずっと役者をやっていて、それで桜美林大学に入ったんですけど、卒業研究でなにか作品を作ろうってことになって、それで書きました。それが初めてでした。

それがAAF戯曲賞を受賞された『虫』ですね。それまでに何か書くことは無かったのでしょうか。

■市原:授業の作文以外では書いたことなかったですね(笑)。でも虫で手応えとか、あとは思うように出来なかったところもあって、もっとやってみたいと思いました。

現在は役者の活動をされているのでしょうか。

■市原:現在はしていないです。1、2年くらい。

劇団を立ち上げたきっかけを教えてください。

■市原:卒業研究をやってみて、友達同士ということで思うように出来なかったところもあって、もっと気遣いなく作品を作りたいなと思い、『Q』を作りました。

とにかく天才バカボンが好きです

これまでに影響を受けた作品や人物があれば教えてください。

■市原:特にないですが、一番凄いなと思うのが赤塚不二夫。友達が『ひみつのアッコちゃん』を持っていて、絵が可愛いので読ませてもらったんですけど、ちょっとヤバいかもって。それで『天才バカボン』を読み始めて。とにかく天才バカボンが好きです。

ヤバいと感じたのはどういうところでしょうか。

■市原:頭の柔らかさですね。何も考えていないというか。思い付いちゃったことを、見えちゃったことをばーって書いてるんだろうなと思う。人間っぽいなと思うんですよね。それと出てくる人、雑魚キャラというか、おじさんとかの顔がめちゃくちゃで、抽象画みたい。コマ割りとかも凄い。最後に東京タワーの絵がでーんって出てくるんです。全然意味分かんないんですけど、かっこいい、みたいな。あと、映画だとヤン・シュヴァンクマイエル。チェコの方で、アニメーションでコマ撮りしてるんです。生肉をちょっとづつ動かしてる映像とかあって、凄い。

戯曲のアイデアや衝動はどのようなところから生まれてきますか。

■市原:毎日暮らしていて、ですね。満員電車とか。

虫はどのような経緯で書いてみようと思われたのでしょうか。

■市原:日々のストレス。一人で部屋にずっと居る時とか、自分のことを知らない人がいっぱい流れている街に一人で居る時とか。

人は分かり合えない

自身の戯曲について、特徴や癖があれば教えてください。

■市原:モノローグが多いです。それと、普段社会で暮らしていく為に自分を押し殺しているところとかありますよね。社会で生きる為に自分を飼い馴らすように暮らしているんですけど、それでも飼い馴らされない部分、動物的な部分は書きたいですね。あとは個人。人は分かり合えない、という部分。最初から分かり合えると思って近づくと大変なので、分かり合えないだろうという感じで接するんですけど、やっぱり分かり合えないというのは辛い。でもそこをマイナスばかりとも捉えていなくて、皆個人、独立した存在なんです。

一緒に芝居を作ったり活動するうえで相手に求める能力はありますか。

■市原:分かり合えない、というのを分かっている人がいいですね。色々な人が居た方がいいんですけど。あとは人間らしいというか、黒い部分があるということ。常に笑顔でいないといけない、という子じゃない子。そこをちゃんと分かっている人がいい。

演出をされる上で、大事にしていること、こだわっていることがあれば教えてください。

■市原:整えない、というところです。見やすくしたりとか整えたりするのは、してるのかな(笑)。凄く奇麗に喋ったりとか、出捌けも理に適っているというのが逆に気持ち悪くて。人間ってそうじゃないじゃないですか。もやもやっとしたところを整えたく無いなって思います。もやもやっていうところを敢えて見せたい。そこを引き出すように周りを整えたりとかはすると思うんですけど、全部が全部奇麗だというのは気持ち悪いですね。

稽古中、役者に細かく演出をつけられる方なのでしょうか。

■市原:模索中ですね(笑)。難しいです。でも、今は結構つけちゃいますね。この子がいるからこうして欲しいという欲望が出ちゃうから、その子じゃないといけないとは思うんですけど、あまり自分から動いてくれなかったりすると、「ここはこうやって動いてください」ってつけちゃいます。でも、自分が思いも寄らないことを見せて欲しいなというのもあります。

全部自分で出来たらいいのに

演劇をしていて楽しいこと、辛いことがあれば教えてください。

■市原:本を書く時によく皆と話をするんですよ。その時間が凄く楽しい。そこでアイデアを貰うこともあります。

本は当て書きされるのでしょうか。

■市原:そうです。当て書きですね。虫はちょっと違うんですけど。

辛いことはありますか。

■市原:ずっと辛い気がするんですけど(笑)。本番ですかね。ハラハラするというか。自分の手から離れちゃって、全部自分で出来たらいいのにって思うんです。思い通りにいかないじゃないですか、演劇って。誰かに任せるところがあって、一人じゃ出来ない所が楽しくもあり辛い。

演劇の面白さ、魅力をどういうところに感じますか。

■市原:自分の頭の中のものを作品にするっていう、音楽とかでも一緒だとは思うんですけど、そういうことが凄く面白いです。でもそれを人に預けるところが、自身での作り込めなさが辛いですね。でもそこが面白いんです。

ありがとうございました。

■市原:ありがとうございました。