ただの演劇部だった
山本さんが演劇を始めたきっかけを教えてください。
■山本卓卓さん(以下山本):最初は高校演劇です。『映画演劇部』ってところに入ったんですね。元々映画が大好きで、映画撮りたいなあって思ってたんですけど、映画一切やってなかったんですよ。全然撮っていなくて、ただの演劇部だった。で、正直「演劇って格好悪いな」と思っていたし、映画撮れないならやりたくないなって思ったんですが、やってみて案外面白かった。そこでハマってしまった。単純にこれまで褒められたことが無かったんですが、公演をやってみて褒められたんです。それで調子乗ったんですね(笑)。
その後、範宙遊泳を立ち上げまでの経緯を教えてください。
■山本:桜美林大学に入って。入る時から団体を立ち上げるのを決めていた。劇団をとにかく作ろうと思っていた。それで入って仲間探して立ち上げた感じですね。大学の2年生くらいかな。
■坂本ももさん(以下坂本):2007年ですね。
劇団旗揚げの頃から作演出はされていたのでしょうか。
■山本:立ち上げの時は作演、出演もしていましたね。
作演を始めたのはいつ頃なのでしょうか。
■山本:厳密に言えば小学3年の時ですね。お遊戯とかですけど。台本書いて。
それはどういう話でしたか。
■山本:おばちゃんの話。俺がおばちゃんなんです。おばちゃんで、なんでか分からないけど仮面ライダーに変身するんです。で、悪を倒せないんです。全然弱いみたいな。コントですね。
高校の演劇部でも作演をされていたのでしょうか。
■山本:そうですね。わりと作家寄りだったのかな。元々書くのは好きでしたね。ほんと落書き程度ですけどね。よく教科書の隅にパラパラ漫画書くじゃないですか。そんな感じで吹き出しとか書いていました。
ジャンルにとらわれない
劇団名の由来を教えてください。
■山本:漢字4文字にしたいなというのが最初にあったんですね。それと、ひとつの言葉に複数の意味を持たせるというのが癖であるんですね。それで範宙遊泳の場合も、『カテゴリー』の『範疇』という文字があって、『寒中水泳』とか、『宇宙遊泳』とか、色々複合させてミックスさせてミキサーにかけて範宙遊泳ですね。範宙という言葉、カテゴリーという単語には、「ジャンルにとらわれない」みたいな発想が入っていますね。
山本さんの名前の由来も教えて頂けますか。
■山本:そもそも山本卓って『卓』はひとつだったんですが、同じ名前の人がたくさんいるんですね。それで役者やってたりするんですね。普通にいるんです。しかも結構頑張っている人たちばかりなんです。俺のほうが全然年下だし、同じ職業で同じ名前ってないなあと思って重ねたんです。重ねちゃえって。
これまでの影響を受けた作品、人物があれば教えてください。
■山本:ぼくは映画が大好きで、映画のなんだろうな、最もと言われると凄く難しいんですけど、最近という意味であれば、ミヒャエル・ハネケの『71フラグメンツ』という映画があって。これが殺人鬼の話なんですね。登場人物のひとりが最終的に大量殺人しちゃうんですけど、そこには特にドラマがなくて、淡々と過ぎていくんです。で、しかも、カメラがそいつらだけを写している訳じゃなくて色々なところに散るんです。普通そういうのって『マグノリア』とか『クラッシュ』のような群像劇のように、最終的に繋がってというのがあると思うんですけど、この映画にはそういうのがなくって。全く関係ないものばっかりで。その中で誰が殺人鬼になるかは分からない。でも最初にテロップで「これは殺人鬼の話です」って書かれているから、誰が殺人鬼になるんだろうって観てるんですよ。本当にこう、「えっ」ていうタイミングでそれが起こる。ハネケはそういう監督で、観客の心理効果を凄く考えているというか。『ファニーゲーム』ってあるじゃないですか。最初、あれを観た時も「なんだこれ」って思ってたんですけど、「映画じゃないじゃん」って。だけど色々考えたんですよ。あまりになんだこれ過ぎて。なんであんななんだろうと考えた時に分かってきたことがあって。それは、逆説的に、暴力をやることで暴力のエグさを出しているというか。「これを観たら人を殺す気になれないでしょ」みたいな。で、「ウエッてなるのは健全な反応で、それを観客に与えたいんだ」と言っていて、俺は凄く分かるなって思って。ハネケって心理学を勉強をしていた人なんですよ。観客の心をどう動かすか考えている人なんだけど。そういうのに凄く影響受けましたね。
範宙遊泳の芝居でもそういう心理作用を考えながら作っているのでしょうか。
■山本:そこがあれなんですけど、実際にそれが好きでもぼくがやるのは話が違う。ハネケがやっているのをそのまま真似てという気にはなれなくて。そんなに反映されていないとは思います。別物ですね。
そういう覚悟ですね
演出をするうえで重視していることがあれば教えてください。
■山本:とにかく裁断していく。決断をしていく。無限にあるんですよ、演劇の選択っていうのは。ほんとに無限にあって、役者をどう配置するとか、役者のこの台詞を削るとか、この台詞を足すと繰り返し出来るとか、それをするだけで演劇っていうのは効果が倍になったりする。あるいはめちゃくちゃ駄目になったりする。その中でとにかく決断していくってことですね。迷わない。迷うんだけど、決めたらそれをやる。そういう覚悟ですね。それがないとと思ってやっています。
裁断するという話について、芝居によっては極限まで要素を削っていくものもありますが、今後はそういう方向に行く可能性もあるのでしょうか。
■山本:そういうのではないですね。でも最近はシンプルですね。シンプルなほうが好きかもしれない。というか単純に人間に興味があって、舞台装置の派手さとかにいま重きを置いていないというか。とにかく人間を描きたいなって。大きくぼくの中では人間の生活というか機微が立ち現れてくるといいなと思います。
権力を持っている人が権力を使わないというのは罪になる
演出家にとって必要な能力はなんだと思いますか。
■山本:愛嬌じゃないですか(笑)。
■坂本:でも愛嬌凄くあるよね。
■山本:愛嬌。あとは厳しさと優しさですね。反対に冷たさも必要です、どこかに。
■坂本:割りと傲慢に見える時もあるけど、それはそうならなきゃならない役割なんだろうなと思う時はある。それを自分で分かって演出をやっていると思う。
■山本:傲慢にならなきゃというか、厳しくしなきゃいけない時があって。傲慢っていう言い方はしてないんだよな。「権力を使わなきゃいけない時がある」って言いますね。演出家というのは権力がある。で、権力を持っている人が権力を使わないというのは罪になる。権力を持っているのであれば、それを最大限使っていく。権力の実態を分かった上で。ということが大事なんだというのを考えているし、それが傲慢なのかは分からないけど。そういうことは凄く考えていますね。
役者として舞台に立つ時に気を付けていることがあれば教えてください。
■山本:台詞をトチらないくらい(笑)。基本的なことなんですよね。気を付けていることというのは、夜何時に寝るとか、どういう生活を普段するとか、そういうこと。良い声を出すとかそういうことじゃなくて、役者は生活なんですよ。生活が大事なんです。
普段のコンディション作りということでしょうか。
■山本:そういうことでもなく、なんていうんだろう。役者は舞台を降りても役者じゃないといけない。人間として常に役者じゃないといけない。そういうことですよね。魅力があるか、ということですね。舞台を降りても。
一緒に活動するうえで相手に求めている能力や要素はありますか。
■山本:なんだろうなあ。優しくて、あとは笑えるか。笑わせてくれるか。それはありますね。笑わせてくれるか、面白いかどうか。
いかに人間の生命を表現できるか
演劇を通して表現したいことがあれば教えてください。
■山本:ぼくが常々言っていることは、人間の生命力というか、生きているということの実態が舞台に現れてくるべきだってこと。営みですね。井上ひさしさんとかも言っているんですけど、どんな人間にも宝石がある。宝石の部分がある。道を歩いているすれ違ったおばちゃんでも、宝石の部分を持っている。それを作家は書くんだって言っていて。それは凄く思いますよね。いかに人間の生命を表現できるか。演劇というのはダイレクトに人間だから。映像とかカメラを通さないから。生身の人間がいるってことは生身の人間が生きているというものじゃなくてはいけないと思う。
他に言い足りないことはありますか。
■坂本:名古屋の人へのメッセージとかいらないかな。
■山本:名古屋大好き。名古屋コーチン食べたいです。
分かりました(笑)。本日はありがとうございました。
■山本・坂本:ありがとうございました。