タガワノリコさん
劇団赤鬼に所属のタガワノリコさんがラブコール企画として立ち上げたJUIMARC。鞄みっつで全国を回っています。非常に真っ直ぐな方で、目の前のことに真剣に取り組む姿勢にはとても感銘を受けました。また、6月に愛知県芸術劇場小ホールにて上演された、AAFリージョナルシアター〜京都と愛知〜・京都舞台芸術協会プロデュース『異邦人』の制作、川那辺香乃さん(トリコ・A)にも同席していただきました。
生意気にも「やってやろう」と思って

タガワさんが演劇を始めたきっかけを教えてください。

■タガワノリコさん(以下:タガワ):高校の時に友達に言われて、全然興味がないのに演劇部に入ったのがきっかけ。最初は個性的な人の集まりで怖かったんですけど、初めて公演というものを打った時に、これちょっと面白いんちゃうかと思って。それと、地区大会で個人演技賞をたまたま頂いたんです。凄い個性的な役者がすぐ横にいて、本当はその子が穫りたかった賞のはずなんですけど、自分のことのように喜んでくれて。演劇部自体は優秀賞。第2位で終わってしまったんですけど、皆でいっこのものを創っていく楽しさとか凄いことなんやなと思って。そこから、いろんな人が観れる面白い作品を創りたいと気持ちが変わっていって。先輩からも「タガワ辞めるんちゃうか」と言われてたみたいなんですけど、結局3年間続けられたんです。でも、大学はアウトドアサークルに入って。

それはどうして。

■タガワ:これまでと全然違うことがしたいと思って。でも夏の間だけ、高校の時の先輩がつくった劇団のお手伝いに行って、演劇には触れてたんです。そしていろんな表現のこととか大学の時に興味を持ったんですけど、結局自分に何が足りないかというと、全然引き出しが足りない。何にもまだ分からへん。それを痛感した。それでOLになろうと、就職したんです。1年目はほんと仕事ばっかりで、演劇も観ようとも思わなかったし。でも2年目の時に、演劇好きの友達に「ワークショップに行かないか」って言われて。で、受けたのが『劇団赤鬼』のワークショップだったんです。赤鬼のことを全然何も知らずに出かけて。それは4ヶ月かけて最後に、劇団赤鬼の千穐楽の舞台を貸し切って、同じ作品をワークショップの生徒でやるというものだったんです。で、これで私の表現に対する気持ちが固まるのであれば、会社も辞めなあかんなと思ったのです。それで、そのまま退職届書いて会社辞めて赤鬼の劇団員オーディジョンを受けて、仮劇団員を経て正式に劇団員になったんです。

そこからJUIMARC立ち上げまでの経緯を教えてください。

■タガワ:とにかく怒られて、ずっといじられて怒られてばかりの毎日で。知らないことばかりが多過ぎて。先輩に言われることでも、なかなかこう、身体がそれを理解するのに人より時間がかかってしまうので。そして3年目の時に少しだけ落ち着いて、何かチャレンジしたいなと思うようになった。それで、これまで人と喋ってきたことで繋がりも出来ていたので、劇団の枠に関係なく、憧れの人と一緒に芝居したいなと、チャレンジの企画を立ててみようかと。その時、先輩も誰もやっていなかったんですが、生意気にも「やってやろう」と思って。そしてそれを期に書き下ろしてもらったのがこの『らんちう』という作品です。第2回会合(2010年6月)・第3回会合(2011年12月予定)…と新たな作品でこの企画は続くんですけど、このらんちうという作品だけは旅公演演目として、毎回形を変えながら今回4回目の公演となります。

毎回形を変えるということですが、これまでどのように変化していったのでしょうか。

■タガワ:最初に大阪でやって、次に東京に持って行く時に大改訂したんです。観てもらったら分かるんですけど、第1幕と第3幕がずいぶん変わりました。それで次に兵庫県に持って行く時に更にぎゅっとなったんです。大改訂してからは、第1幕の台本が無いんです。

エチュード。

■タガワ:そうです。全くのエチュードで始まるので、その場その場の土地のこととか、登場の人物の設定で、その場所で思い付くことをやる。第2幕からがらっと世界が変わります。それも地域毎に変わっているので、何回か観に来てくださるお客様もいます。名古屋も名古屋バージョンということでやります。

好きなのに好きになれない

JUIMARCの名前の由来を教えてください。

■タガワ:マーク・ボランの『マーク』なんです。変な話なんですけど、中学から『T-BOLAN』が大好きで聴いてきたのに、元になった『T-REX』が良いって思えなくて。分かりたいけどなかなか分からない、その複雑な感じ。好きなのに好きになれない。未知に飛び込むというか、どんどん体験していきたいというか。最終的には好きになりたいというのが元になっています。そして、自分にそれをプラスしていくという意味で、漢数字の『十』をプラスして。色々な意味を考えていて、JUIMARCの『I』が自分と掛けてあったりとか。今話していて、自分の中でも長い間考えていたというのが分かりました、これで(笑)。

T-REXの良さは分かったのでしょうか。

■タガワ:憧れとかそういう気持ちでずっと聴いてるので好きになっているんですけどね(笑)。

だいぶ好きになってきた。

■タガワ:いや、『だいぶ』は取ってもらって。聴けるぞって感じ。『T-BOLAN』に比べたらまだまだ道程は遠いようです。

T-REXが好きになれた時、JUIMARCはどうなるのでしょうか。

■タガワ:『T-REX』については、あくまで立ち上げの際のネーミングの元になっている気持ちなんで、好きになれたからどうとかっていうことじゃないんですが、実際の活動としての解散イコール命尽きる感じなので。ライフワークです。

共通のなにかを見つけられたらな

役を演じるうえで気を付けていることがあれば教えてください。

■タガワ:赤鬼では台本からそれぞれが自分のキャラクターを考えてきて、つくってくる。それを演出が「いいやん」って。でも昨日まで出演していた『異邦人』ではそういうのは全くいらないと。何もいらないと。キャラクターということは無しで。そこから覆されたので、3ヶ月前と答えが違うんですけど、役作りで気を付けていることは、だから、今は無い、です。無いというか、考えないということですかね。文章を身体が受けて口から出る感覚。自然というか。なにかを設定するのではなく、ありのまま人間そのまま。なんか纏まってないですね。終わったのが昨日なので(笑)。多大なる影響が次から出てくると思います。

赤鬼に戻った時が大変そうですね。

■タガワ:そうですね(笑)。作品に合わせて、いろいろな表現の仕方が出来るのがいいと思うんですが、そんなに器用ではないので、もがきながらになると思うんですけど、共通のなにかを見つけられたらなと思って。それはワクワクしています。タイムリー過ぎて言葉にならないんですけど。

自分にしかない特徴があれば教えてください。

■タガワ:常に相手と向き合って、話をしながら色んなことを知りたいなと思ってます。

■川那辺香乃さん(以下川那辺):『異邦人』の稽古では、拝見しているとすごく柔軟性のある方だなと感じました。演出家の話を真摯に聞いてらっしゃって、それに対応しようとされてる姿は、ほんとにすごいなと。

■タガワ:異邦人は服を全部脱がされた感じ。出来なさ過ぎて。赤鬼入って5年目なんですけど、歴代に残る恥ずかしさ。これまで培ってきたものが全く通用しない。通用もしないし、やることもちょっと違う。他の役者さんは出来てるのに、自分だけ出来ていないという感覚はあったんですよ。それが少しずつだけど馴染めて、いち登場人物として観てもらえるということが非常に自分の中で大きかった。有り難かった。浮いていなかった。全然足りていなかったとは思うんですけど、こういうことなのかなというところまでは思えるようになったと思います。

凄い長いスパンでやってます

一緒に活動する中で、相手に求める能力はありますか。

■タガワ:第1回目のゲストの山根千佳さんと、演奏をしてくれている平林さんとで日本を回ろうとしているんですけど、協調性のある方。自分はまだまだ拙いけど、その思いに賛同してくれてる、こんなわたしを包み込んでくれる大きい所があって、なお目的に向かって一所懸命だし、凄い尊敬できる人。協調性がないと凄いしんどい時があるので。譲る譲らんという話になると、なんでやってんだろうと思う時ありますから。

技術的なところはあまり問題ではない。

■タガワ:これに関してはラブコール企画なので、技術ももちろん長けてる人になってますけど、相手を選ぶということであれば、協調性ですね。一緒にやっていけるか。話して、お茶してお茶して、やっと切り出すので。凄い長いスパンでやってます。

演劇をしていて楽しい、苦しいのはどんな時でしょうか。

■タガワ:苦しいのは、やっぱりね、頭で分かっていても出来ない時ですね。これがクリアになった時はめっちゃ喜びです。ひとつの芝居で誰々が良かったとかというのはもちろんあるし、知り合いが観に来て「めっちゃ良かった」って言ってくれるともの凄い嬉しいんですけど、作品のことを全体的に観てもらった時に、何も言えないような心が動いたりとか、感動したりとか、良い意味でうわって思ってもらったりとか、そういう時間を提供できたのが分かった時は超幸せです。自分もそうやって巻き込まれていったので。

劇場ごと世界が広がるという感覚

JUIMARCの見所を教えてください。

■タガワ:とりあえず鞄みっつで伺って、その一式を舞台にわーってやるんですけど、全て平林さんの生演奏で音をやっていただいてます。ですので、生ものなので、毎回違う感じになると思います。山根さんとの空気感を感じて貰えると思いますし、こういう形の演出なんやというのを観てもらえたらなって思います。名古屋でやるというのが、東京よりもプレッシャーなんです。東京やったら「大阪のなんなん?」って感じで来てもらえるんですけど、名古屋は予想が付かなくて。何がどうなるか分からないんですけど、生ものの感じの二人芝居を観てもらえたらなって思います。

■川那辺:名古屋のお客さんは素直ですよね。素直な感想を持ってくれはるなって思います。そういうところで言うと、音楽なんかも楽しめるだろうし、間口も広い。関西から見た名古屋というのも見て面白がってくれそうですし。

■タガワ:初演で大阪でやった『らんちう』は非常に哲学的なシーンもあったんです。それで、賛否両論分かれ過ぎて、東京公演は哲学部分をばっさりと違う表現に変えています。見やすくなっていると思います。

哲学バージョンも観てみたいですね。

■タガワ:大阪公演のDVDは物販に売ってますので、もしよろしければ(笑)。回を追うごとに脚本の野田さんが原案みたいになってしまっていますが(笑)、野田さんからも「どんどん気にせずやってください」と今後の『らんちう』も応援いただいています。演出の大塚さんとうまく融合して。楽しくなってると思います。第1幕はエチュード。第2幕は指人形。らんちうは大きい金魚なんですけど、この作品では夢を叶える生き物で、それにまつわる物語です。劇場ごと世界が広がるという感覚で楽しんでもらえればと思います。指人形も使いまくっているので、新調しないとなって思います。

ありがとうございました。

■タガワ:ありがとうございました。