柿ノ木タケヲさん
ゲキバカ主宰の柿ノ木タケヲさん。公演はもちろん、公演以外のところでも非常に熱い団体です。しかし柿ノ木さん自身は熱さを持ちつつも、主宰として冷静で、その語り口は非常に頭の良い方だと思いました。

悪い子だったので

一番最初に演劇に関わったのはいつでしょうか。

■柿ノ木タケヲさん(以下柿ノ木):演劇と呼べるか分からないですけど、一番初めに触れたのは幼稚園の時ですかね。学芸会的な、発表会というんでしょうか。いまはできないかもしれないですけど、『ちびくろサンボ』をやりまして、それのトラの役をやったのが。楽しかったですね。

そこから実際にお芝居を始めるまでの流れを教えてください。

■柿ノ木:高校生の時に帰宅部に入ろうと思っていて、演劇部に入ったんです。演劇部楽そうだったので。

どこか部活に入らないといけない学校だったのでしょうか。

■柿ノ木:そうですね。で、演劇部に入ってですね、すぐ辞めようと思ってたんです。ぼく悪い子だったので、イメージと違うなと思って(笑)。ですが、それからしばらくして公演を打ったんです。それにキャストとして出ることになって、キャパが300くらいの所ですね。

大きいですね。

■柿ノ木:大会みたいなのがあって。合同発表会みたいなものですね。で、出たんですけど、やってる時は緊張とかしてるんですが、終演後に並んで挨拶してる時に結構な数のお客さんがいて、拍手貰ったんですね。今まで生きてきて、15歳くらいかなその時は。まあそんなに大勢の人に拍手貰うことってない訳じゃないですか。舞台上で涙してしまって。それが演劇をやるきっかけですね。

大学では演劇活動されていたのでしょうか。

■柿ノ木:演劇学部に入って。日大の。でも芝居1回辞めたんですよ。「大したことないな」って思って。あと、周りが他の大学行ってる奴が多くて、そいつらと遊んでて。あとはアメフト部だったんで、アメフトがんがんやってて、時間ない訳ですよ。アメフトやって夜バイトして。授業とかも全く行かなくなっちゃって。でもある日友達に「芝居観に行かない」って誘われたんですよ。20歳くらいかな。それが凄い面白くって。『アンドエンドレス』って団体なんですけど。ちょうど主宰と大学の同級生だったので、そこで一緒にやろって誘われて。ちなみに今回の公演(『ローヤの休日』)では大学の同級生であり、同じ劇団だった奴が出てくれるんですよ。

そこから芝居活動を再開して、『劇団コーヒー牛乳』を経て『ゲキバカ』に。

■柿ノ木:そうです。そういう流れですね。

海外でも通じやすいかなと

今は作演出がメインになっていますが、移行するきっかけはありましたか。

■柿ノ木:ありましたね。アンドエンドレスのメインが殺陣とかダンスがだったんですね。で、足の骨折っちゃって。しかも本番中だったんですけど、動けなくなっちゃって。今は大丈夫ですが。それがきっかけで役者を一旦辞めて作演のほうに。ゲキバカの元となる劇団コーヒー牛乳に暇な時に本を書いていたので。

現在役者活動は。

■柿ノ木:たまに出ますよ。

コーヒー牛乳にはどのような経緯で関わることになったのでしょうか。

■柿ノ木:主宰がぼくの大学の後輩で、麻雀友達だったんです。その子はテレビの俳優で「演劇やりたい」って。そいつはノウハウないから、ぼくが誘われて。ぼくは元々は役者として呼ばれてたんです。

現在『ゲキバカ』という劇団名で活動されていますが、その由来を教えてください。

■柿ノ木:『劇団コーヒー牛乳』って名前を変えようと思ったんです。何故かっていうと、団名とやってる内容があまりにも違う。どうしても甘いイメージじゃないですか。コーヒー牛乳だと、なんとなく。それで、主宰者がぼくになったというのもあって、いい機会だから変えようと。劇団員やお客さんからも名前を募って。アンケートとかネットで。その結果劇団員全員が納得いったのが『ゲキバカ』だったと。

それは誰の案だったのでしょうか。

■柿ノ木:伊藤イマジンの案が。分かりやすいかなと。あとはローマ字にした時に海外でも通じやすいかなというのがあって。

海外公演も視野に入れているんですね。

■柿ノ木:そうですね、はい。うちのお客さんには外国の方とかもいますので。いいかなと思っています。

広辞苑にハマっちゃったんです

本のアイデアはどのように生まれて来ますか。

■柿ノ木:その時々で違うんですけど、ぼくの趣味が変わっていましてね、広辞苑読むことなんですよ。辞書を『あ』から読んでいくことなんです。例えばだけど、『平賀源内』に当たるとするじゃないですか。平賀源内ってどんな人なんだろうって、より調べる訳です。それで物語が浮かんだりとか。あとはお酒飲むのが凄い好きなので、いつも行くバーがあるんです、地元の。そこで色んな人と話すんです。色んな職業の方とか人生送って来た人。そこからインスピレーション貰うことは多いですね。だからぼくはうちの制作に『半径3メートルの作家』と呼ばれてるんです(笑)。身近なものでもなんでもぼくの中では物語になるので。

どうして広辞苑を読もうと思ったのでしょうか。

■柿ノ木:劇団員に買ってもらったんです。

何故。

■柿ノ木:分からないです(笑)。そんな読まないじゃないですか、読むものじゃないですから。でもある日暇な時に彼女とクイズでもしようかと広辞苑を開いて。例えば『あんこ』があったとして、説明があるじゃないですか。そちらを読むんです。説明文を読んで、これなんでしょうと。それを当ててもらう。それが結構面白くて。元々文字を読むのが好きで、小説読むのも好きだし。ぼくはテレビ全然観ないんですよ、子供の頃から。ずっと本読んでて。それで広辞苑にハマっちゃったんです。

笑顔を与えられるのは俳優として素晴らしい能力

演出をやるうえで最も必要な要素はなんだと思いますか。

■柿ノ木:視野だと思うんですけど、ぼくが常々役者に言うのは、お客さんの目で見ること。お客さんからどう見えるか、どう思うか。役者にもお客さんに観られていることを意識するように言います。役者自身が演出家でもいいと思うんです。それが一番ですね。ぼくはお客さんのことが根本にありますので。あとは、『男は格好良く、女は可愛く美しく』というのが根本にあります。

ゲキバカは男性ばかりのユニットですが、そこへのこだわり、変える予定はありますか。

■柿ノ木:昔はいたんですけどね。その頃はぼくは主宰でもなかったし、コーヒー牛乳の頃は劇団というよりもユニットみたいなものでやってて。その時は女の子とかいたんですけど。いまは男でやってます。

男だけという風に決めている訳ではない。

■柿ノ木:いまは決めてますね。ゲキバカはそれが売りだとは思ってますので。分かりやすいと思うんですよね。男だけの団体っていうのは。でも女性だけの団体の演出をすることもあるんです。頼まれて他の仕事とかで。今回のローヤの休日も東京では女囚バージョンもあったりするので。かなり若い子も出てます。何故か山梨の学生さんとかも出てます。入れたいなと思う子もいます。でも基本は男子の団体なので、男子校女子校じゃないですけど、そこは分けて、1年に1回一緒にやったりとかしたいなと。具体案は出来てないんですけど、団員には伝えてあるので。

一緒にお芝居を作るうえで、役者に求める要素はありますか。

■柿ノ木:俳優としてなら、凄く曖昧な言葉で言えばセンス、感性。ゲキバカで言えば体力。ハートの強さ。そうしないと旅とかも出来ないし。

それは海外も意識してるとなると重要ですね。

■柿ノ木:タフじゃないと行けないと思うので。1回だけの団体ならいいんですけど、自分の団体だと選ばせて貰います。その時だけの演出の場合は、「好きに選んでください」と。ぼくはノータッチ。ちなみにうちの団体にも未経験者多くいます。あとは、なんか笑顔がいいとかですかね。それは凄く重要だと思います。お客さんに伝わると思うんですよね、その人の人柄とか。じゃないと面白くない。人に笑顔を与えられるのは俳優として素晴らしい能力だと思いますので。別にお笑いが好きな訳じゃないんですけどね。

なんでも出来ますよ

演劇の魅力をどこに感じていますか。

■柿ノ木:とても難しい質問ですね。一般的なものとは違うかもしれないですけど、ぼくの場合は職業として選んでいるので、仕事なんです。でも未だに楽しいなって思えます。でもぼくはね、どんな仕事でも面白いと思ってるんです。

ゲキバカの見所を教えてください。

■柿ノ木:まあ観てもらえれば(笑)。うちは面白いのはね、他の団体の場合、主宰が役者やってる人だと、皆がその人の演技に似てしまうんですよ。本人たちは否定しますけど。うちは映画行きたい奴もいるし、テレビ行きたい奴もいるし、バラバラなんです。身体の能力、言葉の能力が全く違うんです。それがですね、非常にマッチングしてて。ぼくがバランス取ってるんですけど、パズルだと思っています。それはうちの劇団だけじゃなくって、他でやる時もそう思ってるんですけど。また、ゲキバカは個人が独立してるんで。実際彼らは個人で主宰したりしてるんですよ。CMやったり、イマジンさんだったらパフォーマンスの団体だったりとか。そういうのがいっぱいいるんで、凄いいい団体だなと思います。個人でも面白いと思うし、団体になっても完璧に纏まれる。他の団体では絶対ない。あと基本的に仲いいんですよ。それも魅力ですね。それがお客さんに、内輪の力じゃなくて外に対しての力となる。うちの場合は、動きがあったり、ぼく自身が会話とか朗読やっているので、なんでも出来ますよ。うちの役者はどこに出てもいい役貰えますし、そういう奴らの集まりなのでとても魅力的です。

そういう人々をまとめるのは大変じゃないですか。

■柿ノ木:大変ですね。ぼくは主宰者ですけど社長じゃないので。ようは親父なんです。ぼくは皆に助けられてるんです。ぼくはぼくのままでいる。でも昔は皆の生活守らないといけないという変なプレッシャーがあって。食わせてあげなきゃみたいな。でもいまは無くて。逆にあいつらに言われたのは「そんな思われるのは迷惑ですよ」と。「そんなのは自分らでやりますからカッキーさんは勝手にやってください」と。それから凄い楽になって。逆にきっちりと演出家と役者として付き合えるようになった。

他に言い足りないことはありますか。

■柿ノ木:名古屋のお客様に是非観て欲しいです。ぼく自身が愛知出身というのもあって。名古屋にももっと楽しい芝居いっぱいあるし、演劇やってる人がもっと演劇のこと好きになって欲しいです。

今日は本当にありがとうございました。

■柿ノ木:ありがとうございました。