鳥羽あゆみさん
オブジェクトパフォーマンスシアター代表の鳥羽あゆみさん。ゆっくりとマイペースに話されていましたが、非常に強い芯を感じる方でした。また、前回とは逆に、このインタビューでは愛知県文化情報センター主任学芸員の唐津絵理さんに同席していただきました。
こんなに楽しい思いは初めて経験したんです

最初に演劇に関わったきっかけを教えてください。

■鳥羽あゆみさん(以下鳥羽):二十歳位の時、将来彫刻家になりたいなと思って、色々な作品を見るためにブラブラとフランスに行きました。そこで友達に人形劇に連れていってもらったんです。もう面白くって!こんなに楽しい思いは初めて経験したんです。それから人形の造形にも魅かれていって、帰国してから早速文楽や浄瑠璃の頭の勉強を始めました。そんな時四国の香川県に『とらまる人形劇研究所』という人形劇の専門学校が出来るという話を聞いて迷わず入学しました。人形劇をする方達って皆さん素敵なんです。一癖ある方が多いんですけど、こんな素敵な大人になりたいなぁと思いました。その中に木村繁さんいて、利賀の演劇フェスティバルに連れていってもらい、OPTと出会いました。ここならやりたいことが出来るんじゃないかなと思って、木村さんについていって今のわたしがあります。

OPTは人形劇とは形態がかなり異なると思いますが。

■鳥羽:オブジェクトシアターは50年程前からヨーロッパでされてきたもので、人形劇から波及したものです。モノを命があるように動かしたり、なにかに見立てたり。人形のように目鼻がない分、見る者の想像力にゆだねる所が多くなります。

それを木村さんが日本に持ち込んだのでしょうか。

■鳥羽:オブジェクトシアターと身体との関係について独自の解釈で開発されてきたんだと思います。

屁理屈だったら本読めばいいし

これまで観てきた中でもっとも印象に残った作品を教えてください。

■鳥羽:ジャンルによって違うんですけれども、ダンスだったら、ピナ・バウシュの『パレルモ、パレルモ』が印象に残っています。

どのようなダンスなのでしょうか。

■鳥羽:総重量10トンとゆう巨大なコンクリートブロックの壁があって何の前ぶれもなく倒壊するところから始まります。そしてその瓦礫の上でダンサー達が踊るんです。喜びも悲しみも味わった人々の逞しさが胸にズンときました。

■唐津絵理さん:『ダンスシアター』って言うんです。ダンスと演劇。『パレルモ、パレルモ』は『世界都市シリーズ』といって、ある地区に数ヶ月間滞在して、そこの生活を体験しながら作品を作っていくものです。

■鳥羽:お芝居だったら、『劇団青い鳥』の芹川藍さんが好きです。ダンスだと感動することは結構あるんですけど、お芝居で感動するのはあんまり無くて。面白いなとは思うんですけど。人形使いならたくさんいます。ふたりだけ挙げるなら、永野むつみさんと黒谷都さん。表現すること、舞台に立つ姿がかっこいいです。

生き様とか人生が見える方が好き。

■鳥羽:それが見えないと面白くないです。屁理屈だったら本読めばいいし。舞台上で見える生き様ですね。

鈍感にならないように

自らの身体を維持する為にしていることはありますか。

■鳥羽:感性が鈍感にならないように色々と観察しています。かぜで舞い上がるビニール袋や、はためく洗濯物、人の表情の変化とかもね。意思や命のゆらめきを感じれたら楽しいです。肉体的には筋肉をおとしていっています。筋肉で頑張らないでバランスでモノを動かせたらいいなと思います。

一緒に活動するうえで相手に求める能力はありますか。

■鳥羽:呼吸を感じる能力です。物を動かす時は相手の呼吸が本当に重要なんですよ。呼吸が合わないと物は死んでしまう。

実験と遊びの繰り返し

OPTでは色々な道具があって、本来の使い方とは違う使い方であったり、組み合わせてみたりとか、そのようなアイデアはどのように生み出していくのでしょうか。

■鳥羽:OPTの作品作りというのは80%くらいが物と戯れて遊ぶというものです。最初の一、二ヶ月は皆あらゆるものを持ち寄って、ひとつひとつ遊んでいきます。それで今回のお芝居の内容にこの素材が合いそうだぞというのが出て来たら、絞ってどんどん遊びを開発していく。遊びの中から生まれることが多いですね。

楽しそうですね。

■鳥羽:楽しいです(笑)。実験と遊びの繰り返し。

遊びの部分を鳥羽さんが追求して、演出の木村さんがそれを調整するという感じなのでしょうか。

■鳥羽:そうですね。メンバー全員で開発していくんですが、遊んでいてあまりに動きが悪かったらボロクソに言い合うし、良かったらどんどん広げていきます。

OPTで喧嘩になることあるのでしょうか。仲良さそうですが。

■鳥羽:ありますよ(笑)。

元々持っている色々な揺らめきみたいなもの

鳥羽さんにとって表現することの醍醐味はどこにあるのでしょうか。

■鳥羽:OPTのやっていることってモノに命を吹き込み、見る者の想像力を刺激するところがあります。元々持っている色々な揺らめきみたいなものを見せられるのではないかと思うんです。

仏教伝来以前の八百万の神が信じられていた頃の日本に近いのでしょうか。

■鳥羽:そうです。信じる信じないとかではなく、感じ想像する心です。

今後やってみたいことはありますか。

■鳥羽:OPTの活動を世界中の人に観てもらいたいという気持ちはOPTの代表としてまずあります。個人的にやってみたいことは、我を忘れて自然の中で物と戯れていたい。できればそこに太鼓とかミュージシャンとか居てくれたら最高ですね。

誰かに観てもらうということではないんですよね。

■鳥羽:人は影響しあうものだから、人がそこにいれば私もインスパイアされます。

本日はありがとうございました。

■鳥羽:こちらこそありがとうございました。