麻原奈未さん
劇団オートバイの代表で、台本と演出を担当している麻原奈未さん。難解な芝居を作る反面、普段の麻原さんはとても接しやすくよく笑う楽しい方でした。

社会人の6月とかそのくらい

まずは演劇を始めたきっかけを教えてください。

■麻原奈未さん(以下麻原):ええとですね、中学校の時に演劇部に入ってたんですけど、姉が演劇部に入ってたんですね。年子なんですけど、なんだかんだで姉のやってることをその頃はおっかけていて。きっかけというのはそこだと思います。で、なんだかんだでズルズルって感じですね。

その後高校でも演劇をされていたのでしょうか。

■麻原:中高とやって、大学では全然。大学では音楽をやってたんですけど。

どのような。

■麻原:バンドです。ドラマーだったんですけど。軽音楽部の中に演劇をやっていた子がいて、一回客演をやってくださいだの言われてやったりもしましたけど、大学の時は一切離れていたので。で、社会人になって立ち上げに至ったという感じですね。

社会人になってからなんですね。

■麻原:はい。社会人の6月とかそのくらいでしたかね。

会社入って2ヶ月後くらい。

■麻原:そうですね、そのくらい。

何故いきなり立ち上げようという気になったのでしょうか。

■麻原:本は大学4年生くらいの時におもむろに書き始めていて、なんかぽんぽんぽんっと3つくらいまとめて書けちゃったんですね。それで書けたらやりたくなっちゃうのが性で(笑)。で、大学の頃に一回だけやった演劇部の子とか周りの子たちにやりたいんだけど、と話して、劇団立ち上げるというよりは軽いノリでちょっとやろうかと始めたのが元々のきっかけなので。早かったですね(笑)。

他の方々もそのようなノリで。

■麻原:その当時社会人一年目で、わたしより下の子たちが多かったので、学生さんはそんなに忙しくもないですし、みんな普通にああやろうかやろうかって感じで付いてきていた。

当初は何人くらいいたのでしょうか。

■麻原:ちゃんと団員と呼べるのか分かりませんが、5〜6人くらいですかね。

立ち上げ時には既に『劇団オートバイ』という名称だったのでしょうか。

■麻原:オートバイでしたね。

何故オートバイという名前に。

■麻原:それはですね。ぶっちゃけますと、本当に響きだけなんですよ。わたしの知り合いが、わたしがこういうことやろうと思っているんだよねって言った時に、「この響きがいい」って話になって、「ああいいね、この名前採用」って感じになっちゃっただけで(笑)。

なにか意味がある訳ではない。

■麻原:後から結構それを聞かれることが多くなったので、わたしなりに理由を付けて。オートバイという乗り物がですね、自転車ほど遅くもなく、車ほど速くもないという、まあちょうどいい速さの、お客さんにとっても自分たちにとってもマイペースで行けるようなそういう感じの集団みたいな感じですって言ってます(笑)。

マイペース。

■麻原:ちょうどいい速さというか心地良い速さというか。

音を聴いてる時なんですよね

戯曲を書く時の癖や特徴があれば教えてください。

■麻原:まず意図してないんですけど、難解なものが多くって、分かりにくいとはよく言われるので、緩くしてるんですけど、やっぱり分かりにくいって言われます。あとは最近なんですけど、短い台詞が多いです。「え」とか「うん」とか。だから「この『え』の意味が分からない」とかよく役者さんに言われますね。

意図的に台詞を短くしているのでしょうか。

■麻原:意図的、ですね。まあ必要があって入れているので、意図的なのかなとは思うんですけれども。昔はあまりなかったんですけど、色々な戯曲を読んでその影響を受けているのかなと思います。

例えばこの人の本が好きというのはありますか。

■麻原:多大なる影響を受けているのは宮沢章夫さんだと思います。

本以外で影響を受けたものはありますか。

■麻原:川上弘美さんという小説家の人の書き方だったりとか。あとは戯曲を書くのに影響を受けるのは音楽が多いので。

音楽。

■麻原:そうです。パッてアイデアが浮かんでくるタイミングが一番多いのは音を聴いてる時なんですよね。音楽であったり歌詞なんかも多少そうなのかな。

どのジャンルの音楽が好きですか。

■麻原:あまりがっついてここっていうのがある訳じゃなくて。ジャンル分けというのが凄く苦手で、なんか必要がないという訳じゃなく苦手で、ジャズとかポップスとかいうのがあんまりピンと来ない。そういう感覚で音楽も芝居作りもやっちゃってるところがあるので。

過去の作品でそのような影響を受けているものはありますか。

■麻原:エンディングとかに使われている曲が影響を受けているというのは結構あって、第4回の時の『バス停〜箕輪高校前〜』という作品とか。その曲を聴いて演出の仕方が変わったとかは結構あるので。

役者の邪魔をする音響だとか美術であって欲しくない

演出で特に気を付けていることがあれば教えてください。

■麻原:芝居というのは大前提として総合芸術であって欲しいというのは凄いわたしの希望で、まあできてるかどうかは別ですけど、「美術が良かったね」とか、「照明が良かったね」とか、「音響が良かったね」とかそれだけで終わっちゃう芝居はやりたくないというか。「役者が良かったね」は、裏を返せば大正解だと思うんですけど。役者の邪魔をする音響だとか美術であって欲しくないと思ってますし、結局芝居って役者が生きてなんぼだと思っていますので。それは凄い意識してますね。

役者を生かす為に気を付けていることはありますか。

■麻原:演技指導の話になっちゃうかもしれないですけど、まあ分かりにくい台本だから余計にかもしれないのですが、役者の心情に対しては凄く重きを置いてやっています。例えば先程お話した『え』とか『うん』という言葉にも全て意味があるので、『はい』という言葉でも全て違う意味があるからちゃんとそこを汲み取って欲しいとか、なにを考えてこの言葉が出てるとか、そういうところの心情面から役作りをしてもらいたいというのは。あとは関係性だったりとか。お客さんが自ずと役者さんに目を向けてくれる為にどうするべきなのかを考えた時に、そういう関係性だったり感情が見えなかったりすると、入れないと思うので。そういう役者指導に最近は特に気を付けています。

内面から作りあげていく感じでしょうか。

■麻原:役者に関してはそうですね。台本の書き方自体が完全にわたしの内面から書いているので。でも自分の内面なので、うまく言葉で伝えるのが難しくて。なかなか難しいんですよ。

自分のイメージを完璧に相手に伝えるのは難しい。

■麻原:わたしはどちらかと言えば無理だと思っています。でも、わたしは自分の思い通りに動いてもらう駒にはなって欲しいと思っていないので、役者が。で、例えばその役者が台本を読んだ時にその人がどう思ったのかを凄く大事にしたいんですね。なので、さらさら自分の気持ちを全部伝える気持ちもなくて。自分とその役者さんの思ったことの共通項というのはもちろん軸として持ったうえで、そこから先というのは、そこさえしっかりしていれば自分の考えでやってくれればいいよという感じで。たまにズレたらそこはちょっと違うんじゃないって話はしますけど、できるだけそういうキーを作ったうえでの自由度というのは持っていきたいなと思っています。

役者さんから面白いものを見せてくれることもあるのでしょうか。

■麻原:そうですね。まあ役者にもよりますけど、でも自分がああ面白いなと思うのはそういう時だと思います。

ひとつのツールになれればいいな

『十人十色の受け止め方をできるような芝居』というものを劇団オートバイでは掲げていますが、そういう考えに至った経緯等があれば教えてください。

■麻原:芝居って結構あれじゃないですか。観に行くのによいしょっと腰が重たくなるような文化のイメージがあるんですよね。でもいざ観てみるとそんなに重たい訳じゃなくて、やっぱり知らない人って劇団四季とかそういうイメージが強くあると思うんですけど、そういう芝居だけじゃなくって色々なお芝居があるってことで、まずとっかかりとしてひとつのツールになれればいいなというような感覚で始めたので、そういう言葉を使っていたのですが。あとはそれと平行して、ひとつのものを見た時に考えることって人それぞれだと思うので、そこに対する可能性を残した状態の作品を作りたいというのがあって。これはこうなんですよ、というよりは。あれはどういうことだったのかなとか、なんで最後にあの人こうしなかったのかなとかいう変な悶々とした感情が残ってくれたほうがいい。自分としてはもちろん正解というか確実にこうなんだというのは持ってはいるんですけど、そこに対しての間口というか幅というのはあるようにしたいなと思います。

麻原さんが思う正解とは違うことを観た人が感じても問題ない訳ですね。

■麻原:それでいいと思っています。はい。

『とっかかり』という言葉が出てきましたが、芝居を観たことのない人がオートバイの芝居を観て、演劇に興味を持ってもらえたらということでしょうか。

■麻原:そうですね。そういうこともあって、最初の頃は劇場とかで芝居打っていなかったんですね。大学の学生会館の中にあるちょっと大きめの和室を使ったりとか、公園の公共スペースでやらせていただいたりとか、「あれなにやってるんだろう」といった感じで触れられるような機会というところで、第4回くらいまではやっていたので、そういうところも含めてとっかかりとして。

そこから徐々に劇場でやるようになった経緯があれば。

■麻原:初めて劇場でやったのは第5回の七ツ寺の公演です。それまではずっと外だった。普段芝居とかやらせてもらえないような所とかに交渉して使わせてもらったりとか。

そういう意図を持って活動されてきて、手応えや反応はどうでしたか。

■麻原:大変というか、広がりにくいとは正直思いますね。なんでか知らないけど構えられちゃうというのはあるので。音楽をやってる友達とかに、ライブハウスの折込みとかに入れさせてもらったりとかしたりしてるんですけど。それでも足を運んでもらえるというのはなかなかないですし。ちょっとづつは伸びて来ている感じはしますけど。でもやっぱりまだまだこれからって感じですね(笑)。

他人事でいられきれない

一緒にお芝居をしていく上で、相手に持っていて欲しい要素や素質はありますか。

■麻原:能力は全くいらなくてですね、経験も全くいらないですけど、自分の限界を自分で作らないで欲しいってことぐらいです。もちろんやる気っていうのはあるんですけど。「ああ無理だ」ってすぐ思っちゃわないことが大事だなって思います。特に美術とか照明なんかもそうなんですが、うちは無茶なことを結構するので、それに対して「照明の光が届かないから無理だよ」とか言われるんですけど、「無理じゃないから。やろうと思えばできるから」という感じに話をすると、その人たちも結果として飲んで良いものが出来たりもするので。自分たちで可能性を狭めちゃうことだけは絶対したくないなって。

代表として劇団を取りまとめていく上で気を付けていること、大事にしていることを教えてください。

■麻原:さっきの話と逆行しちゃうかもしれないですけど、組織という面ではどっかで無理ってところも見据えなきゃいけないところもあるなって思う。まだ本当に模索中なんですけどね、代表という面では。盲目になり過ぎちゃうところに、常に冷静な目を持っていられること、だとか、あとは代表であるという責任を持つこと。凄い難しいですよね、本当にね、こればっかりは(笑)。もうこれで7年目になるんですけど、この集団はこういう風にやっていくんだよというのを色々わたしが出してあげなきゃいけないんじゃないかなって思います。そういう時にどこまで少数派の意見というのを、「いやでもね」という風に言っていくというのは、結構難しいなって凄く思いますね。いま凄く過渡期というのはありますね。

過渡期。

■麻原:過渡期だと思いますよ。学生だった子が社会人になったりとか、仕事の中でも責任のある立場になったりとか、結婚したりとか色々あるので、その中でも続けていくのかどうか、皆も考えていくところの中で、続けていく為に、この劇団はどういこうとしてるのかなというのはやっぱり見えないと。だからいま考え中、ですね(笑)。

演劇の面白さ、魅力をどの辺に感じていますか。

■麻原:良い芝居をしていると、箱全体で空気ができちゃうところかな。お客さんを含めたうえで。他人事でいられきれないというか。そういう感じのお芝居が凄く好きですね。

麻原さんとしてはそういう芝居を作っていきたい。

■麻原:そうですね。うん。

全体の空気を作る為に気を付けていることはありますか。

■麻原:役者が生きるというようなことは先程話したんですけど、その役者が例えば客席の中にズケズケと入って行ってというのは、わたしとしてはそれは違うなと思っていて。そういう関与の仕方というか。そういった面でのサポートができるものというのが、音響であったり舞台美術であったりと思っているんですね。これまでは結構、自分が好きだというのもあるんですけど、プロセミアム形式じゃない舞台というのが多くて、お客さんに囲まれているだとか、そういう舞台の一部になっているような作り方っていうのを今までは好んでやっていましたし、お客さんにとっても自分は舞台の一部というのを感じてもらえたらなと思ってやっていたんですけれども。

あまり客席との垣根を作りたくないのですね。

■麻原:はい。作りたくないですね。

以前『Enter Key』を観せていただいた時は客席が舞台を挟み込むような形状になっていましたが、あのような形に組むことが多いのでしょうか。

■麻原:多いですね。その前の作品の時もL字にお客さんを置いてみたりとか。たぶんプロセミアムのほうが少ないんじゃないかと思うくらいですね。

いつ頃からそういう形式でやるようになったのでしょうか。

■麻原:むしろ初めのうちのほうがその色が強かったと思います。Enter Keyの初演の時はお客さんが丸く囲むようになっていたりとか。会場の作り的にそういう風にしかできなかったというのはあるんですけど。演劇の垣根というか、演劇はこういうものだという概念を持って欲しくないというのはあったので。そういう所とお客さんが入りやすいという所も含めて。

もっと身近な所に総合芸術ってあるんだよ

演劇で表現したいことはありますか。

■麻原:難しいなあ(笑)。あまりちゃんとは分からないんですけど、結局いつも人の作品を書くので。人が主役の作品。団員にはいつも「そう?」って言われるんですけど、わたしの作品の大本のテーマは愛なんです。男女の愛だけじゃなくて、友情だったりとか、憎しみもそうかもしれないですし。人の痛さであったり深さであったり、人と人、というような感じになってくるのかな。なんか愛なんですね。

愛を描きたいと思って書いているのか、書いたら愛を描いていたのか、どちらなのでしょうか。

■麻原:完全に後者ですね。「今回のテーマは」と聞かれて「愛です」と答えることはまずないんですけど、結局演出しているうちに、こう役者の感情を追ってるうちに、結局人に対する愛であったり、なにかに対しての愛ってことが出て来ちゃうんですね。書いてる時は一切そのようなことを考えないんですけど。結局そこに行き当たっちゃいますね。役者は分かってくれませんけど(笑)。

これまでで、愛というテーマが最も出ていた作品はありますか。

■麻原:分かりやすくお客さんに伝わったという面では、第6回の時にオムニバスをやったんですけど、二作品目に『キョウコノゴロ』って作品があって、二人芝居なんですけど、息子と母親の話だったんですよね。これは誰が観ても分かりやすい愛でしたね。

ご自身の本が分かりにくいという話は何度か出ていますが、それを分かりやすく見せようという意識はあるのでしょうか。

■麻原:なんか、あるんですけどね。意識をそちらに持って行き過ぎちゃうと、自分の作品らしさというのが気になっちゃったりするんですね。そういうところで凄く悩んだ時期があって、台本書けなくなっちゃったんですけど。でも分かりやすさって自分では分からないので、自分の思うままに書くしかないなと思い、書いて、次の作品になったんですけど。冷静な目を持った団員も周りにいるので、そういう人たちに話を聞いて、自分が書きたいものの域を超えない範囲での歩み寄りというものをしていけたらいいなっていうのが今の段階なんですけど。

劇団オートバイの見所を教えてください。

■麻原:観に来てくれたら分かると思います(笑)。これまた難しいなあ。総合芸術的観点というのは、ある程度自信は持てるかなと思っています。壮大なことをするのは金さえかければできますけど、そういうことじゃなくて、もっと身近な所に総合芸術ってあるんだよというアプローチの仕方っていうのはうまいんじゃないかな。普段生活している中にも面白いことってあるんだという発見のきっかけのひとつになれると。

なにか他に言い足りないことはありますか。

■麻原:言い足りなくはないです。いっぱい喋ったので。芝居のことでこんなに喋ったの初めてかも(笑)。

ありがとうございました。

■麻原:ありがとうございました。