弦巻啓太さん
札幌を拠点に、誰にでも楽しめるコメディー作りをしている劇団、『弦巻楽団』主宰の弦巻啓太さん。とても楽しい方で、周りの人まで前向きにしてしまうパワーを持った方でした。
5回中3回

弦巻さんが演劇を始めたきっかけを教えてください。

舞台写真

■弦巻啓太さん(以下弦巻):もともと目立ちたがりやな子供で、小学生の時は学芸会のお芝居で必ず中心人物をやりたがる子供でした。3回主役・準主役をやりましたね。5年生は器楽演奏なので実質5回中3回ですから、出たがり全開です。中学に入って「目立つの恥ずかしいぜ!」なんて思春期を人並みに通る訳ですが、やはり文化祭で「15少年漂流記」をやる事に生徒の意見でなり、僕が先生に報告に行きました。委員長だったので。すると担当の先生に「台本も無いのにどうするんだ、じゃあお前が原作読んでかけ。」と言われました。それが処女作ですね。結構脚色しました。人食いプーマとか勝手に登場させたり。演出も一応しました。「台詞言う人は立とう」とか。それがキッカケです。その上演を終えた時、「高校で演劇部に入ろう」と決めました。

弦巻楽団の劇団名の由来を教えてください。

■弦巻:移り気で、好奇心旺盛(双子座)なもので、色んな編成で芝居が出来たら良いなと思い「楽団」にしました。スターダストビューのアルバム名から…も、少しはあるんですが。モデルは60年代後期を中心にヨーロッパで活躍したクラーク・ボラン・ビッグ・バンドと言うジャズの歴史(一般的なヤツ)では近年まで大きく扱われなかったバンドです。アメリカを見切って欧州に渡ったジャズマンが多数在籍したオールスターバンド(ケニー・クラークとフランス人のフランシー・ボランがリーダー。)なんですが、当時は(今も?)時代遅れとされてたビッグバンド、バップ以前を想起させるスウィングジャズと「デッド」な要素が多いジャズを演奏してたバンドなんですが、非常にレベルの高い、そして優雅な演奏を残してるんですね。クラブジャズ以降は再評価著しいバンドです。「オリジナル」バッパーのケニー・クラークなんですから、スウィングもお上品なだけでなく、ビートが鋭く「踊れる」ジャズなんです。その「フォルムとしてけして真新しくは無い。」「ビートが、リズムがしっかりしてる。」「メンバーの一体感」と言った点が自分の作品に近い気がして…おこがましいんですが。

あと、このバンドはメンバーが流動的でアルバムごとに参加者、不参加者が結構自由な感じだったり、ボーカリストを迎えたり、メンバー(主にベースのジョン・ウッド)がボーカルまでやったり、セクステット名義の作品もあるんですが、日本だと「クラーク・ボラン楽団」で一緒くたに翻訳され紹介される。その「楽団」という言葉の許容量、自由さに惹かれました。旅にでるのも楽しい感じもしますし。

チェックだけに
舞台写真

戯曲のアイデアはどのようなところから生まれて来ますか。

■弦巻:いろいろです。これまで、アイディアが出なくて苦しんだことはありません。出たアイディアから何を選ぶかが本当に苦しい。たくさんやりたいことがあるんで、ずっと「出番待ち」なアイディアもありますし。哀しいのは数が多すぎて、消化できない内にタイミングを失って「期限切れ」アイディアが出てしまうことです。ドラキュラを主役にした『魔界の中心で愛を叫ぶ』というネタはずっと懐にあるのですが、これは世に出ることなく終わりそうです。完全に時機を逸しました。良い作品なんですが・・・。(主題歌は勿論『魔界に一つだけの花』)

演出の際に気を付けていることはありますか。

■弦巻:役者が面白いことをしても嫉妬しない。(演出作には出ませんが、弦巻は役者志望でもあるのですぐ「俺だって!」と悔しくなるのです。)

演出家にとってもっとも必要な要素は何と考えていますか。

■弦巻:(自分に物凄く欠けてると思うので)忍耐力。(同じくらい欠けてると思うので)美的センス。最も必要な要素が無いってことは僕ってひょっとして・・・

弦巻さんが必要とする役者の条件を教えてください。

■弦巻:キュートさ。美醜のことではありません。なんでしょうかね、同じシモネタを言っても、可愛く聞こえる人と匂いがしそうな程生臭くなる人っていますよね。そこかなー。

セットや衣装でこだわる部分はありますか。

■弦巻:青(ブルー)は使わない(小道具も含め舞台上全部)。よく衣裳さんには泣かれます。チェック柄の衣裳に一筋でも青があったらボツ。徹底してチェックします。チェックだけに!

戯曲、演出等全てを含め、自分にしかない特徴はありますか。

■弦巻:ないです。

あ! 厳密に自分だけか断定は出来ませんが本番前全員で「あんばい発声」という一種の気合入れをします。同じ高校にいた「あんばい君」に因んだ発声です。あんばい君は演劇と無関係ですが、よく部の公演を見に来てくれてました。

音楽より具体的で、映画より個人的で、読書より一体感がある体験

普段は札幌を拠点に活動されていますが、旅公演をする時には地域の違いを感じますか。

■弦巻:凄い感じます。反応が全然違います。札幌はお客さんがみなシャイなので、最初に「クスリ」として貰うまでが大変です。

演劇のどこに魅力を感じていますか。

■弦巻:音楽より具体的で、映画より個人的で、読書より一体感がある体験になる可能性を持っているところ。勿論、優秀な演劇であれば、ですが。

演劇でどのようなことを表現したいと考えていますか。

■弦巻:例えば、人生はくそったれでも、かわいい女の子が(またはかっこいい男の子が)笑ってくれる瞬間だけ「生きててもいいや」と思えるなら、その瞬間を100分せめて持続させたい、、、と言うようなこと。

いたってオーソドックス

弦巻楽団の見所を教えてください。

舞台写真

■弦巻:僕らは何の変哲も無い、いたってオーソドックスな芝居をしてます。「分からない」お客さんが出てしまうことは、普通表現では仕方ないことかもしれませんが、「疎外感」を感じては欲しくない、と思って日々創作してます。四つ前の質問でも答えたように、(断言することじゃないですが)「弦巻楽団だけ」なんて要素は(残念なことに今の所)ありません。ただ、色んな要素の混ざり具合、その温度がうちだけ、とは言っても許されるかなと思ってます。クラーク・ボラン・ビッグ・バンドも要素で語ったらエリントン楽団と何が違うんだって話ですし。(どっちも大好きです。パンフレットに必ず書く「LOVE YOU MADLY!」は勿論エリントンから。)最近、やっと札幌でそこに気付いて貰え出した・・・ようです。と、思いたい。

ありふれた、それこそ一万団体くらい語ってる言葉ですが、僕らは(とても広義での)コメディをしたいと思っているので、やはり「見る人に元気になって貰いたい」。どれだけ救いが無い時代に僕らがいたとしても。恐怖と不安に今の僕らがどれだけ囲まれているとしても。