清水順二さん
人気劇団で揉まれながらキャリアを積んだ役者たちが、30歳になる年に結成した30-DELUX。現在に至るまでには相当な苦労があったようですが、だからこそ持てる魅力を感じました。清水さんには公演前日という多忙な時期にお時間頂きました。
分かりました、明日からお願いします

清水さんが芝居を始めたきっかけを教えてください。

■清水順二さん(以下清水):大学卒業して、会社員やっていたんです。名古屋から東京に転勤になったんですが、そこで営業を一年。一方で、出身が体育大学だったので、体育の先生になりたいと思っていて、営業しながら勉強していたら奇跡的に受かって、保健体育の先生として東京の都立の高校に。ところが夏休み前に、生徒でタレントを目指している子がいて、その子の初舞台を観にいったんです。…つまんないものだと思っていて、舞台って。でも観たらすっごい面白くて、「これだ」って、次の日に辞表を提出しました(笑)。

先生やっていたのは一学期のみ?

■清水:夏休み前まで。だけど俳優になる術がなにもないから、芸能人と言えば六本木だと思って、六本木で働いていたんです。クラブとかでウエイターやってたりして。それで、ここでドラマの打ち上げをやっていたのですが、それを接待していたら、「もう23歳で、特に男前でもないし、無理でしょ」と言われて。でも「特技を身につけたら」と言われたんです。演技ではお金になるまで色々大変だから、特技を身につけなさいと。それで特技特技特技特技…と雑誌を探しているうちにアクションとかスタントとかに興味を持って。そこで見つけたテーマパークの日光江戸村は、アクションも舞台もお芝居も勉強できて、月収でお金を貰えるという、そんな都合のいい所があると。それで東京の恵比寿に住んでいたんですけど、そこから観に行ったんです、日光に。そしたら忍者のショーが格好良くて。すぐに江戸村の事務所に行って、「ぼくを入れてくれ」と。そしたら「お前みたいな馬鹿な体育会系はたぶん忍者部隊にはちょうどいいから。人手不足だから、すぐに引越してきなさい」って。「分かりました、明日からお願いします」。その日に恵比寿に戻って、次の日にレンタカー借りて引越しました(笑)。

凄い行動力ですね(笑)。

■清水:次の日から忍者の服を着てチケットのもぎりとかやってました。そこで二年半くらい色んな役やって、アクションもお芝居もスタントも時代劇も勉強して。…そこ給料が良いんです。寮費もタダだし。光熱費もタダだし。待遇があまりにいいので「このままじゃまずい」と思って、東京に戻ってきて劇団に入ったんです。

それがMOTHER?

■清水:そうです。でも本当のきっかけと言えば、やっぱり生徒の初舞台です。

次の日に教師を辞めるというのが凄いですね。

■清水:今でもそういう性格なんですけど、思ったらすぐに動かないと駄目なんですよ。

いつか一緒に主役張れる舞台やろうな

30-DELUXの他のメンバーとの出会い、その時の印象を教えてください。

■清水:タイソンは、新感線にアクション要員で客演する機会がありまして。そしたらペーペーのタイソンがいまして、でかい身体で厳つい顔してるのに、一所懸命働いてるな、こいつ。頑張ってるなこいつと思いました。その時はぼく、タイソンのおかげで劇団員みたいな感覚で新感線さんとお付き合いできたんです。客演というよりも。朝方まで小道具作って、一緒に銭湯に行って、凄くいい思い出なんです。それで、タイソンと同い年なんで、「いつか一緒に主役張れる舞台やろうな」という風に言った記憶があるんです。それがたぶん98年くらいだったと思う。

佐藤さんの印象は。

■清水:佐藤はキャラメルボックスの稽古場を見学させてもらえる機会があって。そしたら面白くて、キャラメルボックスの稽古が。と、そこにやっぱり新人の佐藤が(笑)。で、これもまた同い年で。頑張ってるなと思って。タイソンが新感線入ったのも、佐藤がキャラメル入ったのもどちらかというと遅いほうだったので、20代の半ばとか。ぼくもMOTHERに入ったのが25とか6だったから、結構年齢がいってるのに新人みたいな。それで気が合ったというか。それぞれ境遇が似てるねって。それぞれ人気劇団に居て、同い年で、劇団の先輩とかに自分より年齢の低いのがいたりとか(笑)。それでも頑張ってペーペーでやんなきゃみたいな。佐藤君も舞台の転換とか一所懸命やってて。それで仲良くなりましたね。

佐々木さんは。

■清水:佐々木は、タイソンが佐々木とやってた『アフロ13』って劇団があって、ぼくがそこで殺陣の指導をしたんです。それがきっかけで佐々木とは知り合ったんですけど。佐藤とタイソンを引き合わせたのはぼくです。それで、よく考えたらみんな同い年じゃんって。全員1972年生まれで。出会った頃はまだぼくもまだペーペーだったんで、じゃあみんな30歳になる頃にまた集まろうぜ、という形で。そしたらうちのMOTHERが2002年に解散ということになったんで、2002年に彼らを集めて、じゃあ一緒にやろうと。

最終的なきっかけはMOTHER解散なのでしょうか。

■清水:そうです。ぼくは『(MOTHER)』がなくなるので、所属団体を作りたいと(笑)。そこで自分たちの作品を作りたいと。ちょうどタイソンも佐藤も劇団に慣れてきて、外に出てみたかったみたいで、タイミングが合ったんです。

バク転して点滴打ったりしてました

30-DELUX以外にも個人活動を活発にされているようなのですが、具体的にどのようなことを。

■清水:ぼくは殺陣指導ができるので、自分の殺陣の道場を持っています。週3回、毎回25人くらい習いに来ます。

客演の活動は多いですか。

■清水:多いです。年に3本くらいは出てますね。そして30-DELUXで2本くらい。年間で5本くらいやっています。

客演ではアクションが多いのでしょうか。

■清水:30-DELUXではアクションをお家芸としちゃったんでアクションやらざるを得ないですけれども、外部ではアクションやってない清水を観たがってくれるので、最近は外部に出るとアクションやらない役が多いです。今度出る作品もアクションが全くない、不倫しているボケ男の役です。オシャレスーツ着て(笑)。

これまでで一番変わった役、もしくは印象に残った役はありますか。

■清水:…看護婦の役は。女の役で。女の役は何度かやったことがあって、30-DELUXでも女将さんの役をやったことがあります。割烹着着て。タイソンの役と恋愛関係という(笑)。女性の役は5回くらいやったことありますね。奇麗というよりもギャグ系のコントになるか、口うるさいおばちゃんみたいな感じ。看護婦の役はバク転して点滴打ったりしてました。

『30-DELUX』と『ギリギリボーイズ』という名前の由来を教えてください。

■清水:これはもう明快で。30-DELUXはメンバー4人が30歳になる年に結成しましたので。『DELUX』は岸谷五朗さんの『地球ゴージャス』というユニットをぼくは目指していて、ゴージャスに負けない名前を(笑)。で、デラックス。ギリギリボーイズは4人が30歳になる。男の30歳って色々な意味でギリギリだねって。若くもなく歳でもなく、色々な意味でギリギリだから、まあギリギリボーイズ。

正式名称は30-DELUX?

■清水:はい。ギリギリボーイズはニックネーム。

周りの人はこんなに理不尽な動きをしているとか

30-DELUXの舞台は、演劇の枠を越えたエンタテイメントを作ろうという意志が感じられるのですが、その辺について考えていることはありますでしょうか。

■清水:旗揚げの時は、皆劇団でドラマを背負う役とかをやっていないので、そういう人たちがいきなり主役になってやる訳だから、動きのない演技力だけだとお客さんにバレてしまうというか。自分たちの未熟さが。アクション、パフォーマンス、踊りとか、そういうものを入れることによって、演技だけじゃなく色々な視点からお客さんを楽しませることができるので、敢えてたくさん入れてました、旗揚げの時は。ところが最近30代半ばになってきて、キャリアもある程度ぼくもタイソンも佐藤もついてきたんで、どちらかというとアクションは1シーンがっつりやるとか、基本的にドラマ性の高い芝居を作るようにしています。

敢えてそういう方向へ?

■清水:そうですね。アクションばかりのイメージでも良くないですし、本当に色々なことをしてお客さんを楽しめるようにしていますが、基本的に演劇って良い脚本が一番だと思うので。面白い脚本、ドラマ性の高い脚本を。そういったクオリティの高いドラマを作っていきたいな、という思いが今は強いです。でもアクションのおかげでファンが付いてきてくださったというのも大きいので、十八番としてアクションを。期待を裏切らないように。

アクションは継続しつつ、ドラマ性の高い舞台をやりたい?

■清水:ドラマ性、笑い、あとはメッセージ性です。作品を作る時にいま気をつけていることは、現代社会にリンクするメッセージ性の高いものにしたい。だから時代劇をやるにしても、どこか現代に通じるなにかメッセージ性のあるものをやりたい。説教臭くなく。だから次回公演の『ファミリア』のテーマは、身近な人を大切にするっていうテーマになっていて、現代社会で一番大切なものはなんだろうと考えた時に、そこに当たるかなという。

色々な表現がある中で、アクションを敢えて選んだのは何故でしょうか。

■清水:殺陣をやるだけがアクションじゃないんですよね。例えば、この目の前の物を取ることもアクションなんです。そして、アクションで楽しいとか、頑張るとか表現できちゃうんですよ、8割9割、舞台だと。

身体全体だけではなく、指先の動きだけでもアクションなんですね。

■清水:(指を指すポーズ)指を指すこの仕草がゆるいと格好よくないってあるじゃないですか。これができる人はやっぱり普通の人とは違う。

殺陣をやるうえで楽しい部分、逆にしんどい部分はありますか。

■清水:お客さんがびっくりする表情を見るのが楽しい。それはもうワクワクします。逆にしんどい部分は、毎回公演を打つ度に、クオリティーを上げていかないといけないことです。前回よりもあんまり、というのは良くないので、毎公演なんとか。もしくはバリエーション変えるとか。刀だったけど、次は西洋剣で、次は中国刀でとか。または動きのニュアンスを変えたりとか。30-DELUXの方向性としては、毎回殺陣のスピードが上がっています(笑)。だから危険な殺陣なんです、だいぶ。刀がぼくらの動きについて来れなくなってきてるんです。だから折れやすくなってる。

殺陣について、ここに注目して観ると面白いというところはありますか。

■清水:主役を観ると一番格好いいんですけど、周りのやられ役の人たちを観るのもひとつ面白い。どれくらい頑張って動いているか(笑)。プラス、殺陣って主役があまり動かないんです。あんまり動かない。ちょっと横に移動するくらい。でもぼくは、やられ役も主役もバンバン動き回ってる絵が好きなんです。主役も移動しまくって、それ以上にやられ役も位置を移動している。だからそういう視点で、主役が凄く動いてるとか、周りの人はこんなに理不尽な動きをしているとか。それでも主役が振った剣に合わせてくる。ぼくら「カブリ」って呼んでるんですけど、ちゃんと刀を振ったところに、やられ役が入ってくる。周りのやられ役のうまさっていうのも是非。うちの公演はみんなうまいんで。

95%の娯楽と5%のメッセージ性

30-DELUXの芝居で表現したいものはありますか。

■清水:娯楽ですね。お客さんが素直に楽しかったと思える娯楽を表現したい。その中で、5%だけ。前回の公演ではシェークスピアの題材をもじった作品だったんですけど、最後にメッセージで「生きるべきか死ぬべきか。…そんなもんな、死ぬ気で生きてやるってんだよ」みたいな。最後そういう台詞が一言だけあったんです。それまでは完全にお笑いなんです。最後の最後に「ふざけんなっ。死ぬ気で生きてやるってんだよ」って。それがその作品のテーマ。95%の娯楽と5%のメッセージ性。

そのメッセージには現代社会にリンクしたものを?

■清水:そうですね。身近な人を大切にしよう、だったり。ゴミを捨てるな、みたいな。ゴミは分別しろ(笑)。

30-DELUXの見所を教えてください。

■清水:ぼくはテーマパークでお芝居作っていたので。テーマパークってチケットを買うところからワクワクするじゃないですか。もう乗り物乗る前に既に楽しい。乗り物乗った後も、家に着くまでなんか楽しい気分になれる。そういうのを提案するのがぼくらのライブで、ぼくらにもオリジナルキャラクター『よつば』と『はな』なんてのがいて、公演に来ると、ロビーに彼らが歩いています。で、劇場入って、ロビーから客席について、お芝居観て、劇場を出て家に帰るまで、お客さんが楽しくなるようなトータルプランを提案しています。だから始まる前から客席に行って前説したりとか、客席案内していたりとか、衣装着て。終わった後にもサイン会やっていたりとか、握手会やっていたり。お芝居以外のところでもお客さんの笑顔の為に気を使っているところはたくさんあるんです。本編終わった後に日替わりのショートコントやったりとか。

それは観たいですね(笑)。

■清水:とにかくイメージはテーマパーク。ぼくらは『テーマパークライブ』と呼んでいるんですけど。うちらはお芝居だけじゃなくて、それ以外のところも見て欲しい。スタッフが皆笑顔で、対応も良くて、皆楽しそうに働いている。今の日本で敢えてお金の儲からない演劇をするのはなんでかというと、楽しいから。やってるスタッフもお客さんも皆笑顔で楽しくなかったら意味がない。お客さんにそういうのを感じて欲しい。それが見所だと思います。

本日は長い時間どうもありがとうございました。

■清水:いえいえいえ。