にへいたかひろさん
にへいたかひろさんは、優しい空気を醸し出しているとてもシャイな方でした。また、今回のインタビューに関して大変お世話になった、俳優、制作、宣伝美術をしているおぐりまさこさんにも同席していただき、雑談を含め、まったりとインタビューは進みました。
自分がそこに居てもおかしくないよね

まずは演劇を始めたきっかけを教えてもらえますでしょうか。

■にへいたかひろさん(以下にへい):大学1年の時に、NACっていうタレント事務所に入ったのが最初のきっかけです。そこでは必ず夏に舞台をやるんですね。でも、演劇はその前から観てはいました。演劇をライフワークにしていこうと思ったのは、23、4歳くらいです。NACに講師として来られていたジャブジャブサーキットのはせ(ひろいち)さんのワークショップで作品作りなどをさせていただいていたのですが、はせさんが辞められることになって、じゃあそこにいたメンバーでなにかしようかと、立ち上げたのが『よこしまブロッコリー』。最初は『NACワークショップ』という名前だったんです。

■おぐりまさこさん(以下おぐり):はせさんの元に集まっていたメンバーで同じような思いの人が集まって、じゃあぼくたちで創ろうってなったらしいです。

大学1年の時にNACに入ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

■にへい:元々は映画だったんですよ。大学に入った頃、暇で暇で、映画ばっかり観てたんで。ふとした映画を観た時に、ある風景が映っていたんですが、自分がそこに居てもおかしくないよね、と思ったんです。

最初は『NACワークショップ』という劇団名だったということですが、そこから『よこしまブロッコリー』という名前に変わった経緯を。

■にへい:その名前で3回やったのかな。そして4回目の時に、事務所の名前が入っているとカンパニーが直に評価されてもらえないと思いまして、そこで違う名前を考えようと、3週間くらい居酒屋で会議しました。「よこしま」っていう横着なイメージと、「ブロッコリー」という芽がいっぱいで、色々な方向に広がっているというイメージ。後、可愛らしくて、女の子にモテるかなって(笑)。

最初、劇団によこしまさんという方がいて、その方の名前だと思っていました。

■にへい:よこしまというのは、最初阪神ファンのメンバーが縦縞と言い出して、どういう意味があるんだよって。あ、じゃあよこしまって平仮名にしてみようか。これってこういう意味だよなって。

他にボツ名とかありましたか。

■にへい:『劇団温暖前線』『掘りごたつ』『生足天国』。その辺に書いてあった言葉を取り入れてみたり。煮詰まると人間、段々意味がない方向へ(笑)。

『よこしまブロッコリー』という名前に異論は出ませんでしたか。

■にへい:そこはもう。ああ、そうだねって。結構すんなりと。ただちょっと口に馴染まないので、そこは馴染めなかったらまた考え直そうよと。

デザイン面はおぐりさんが担当されているのでしょうか。

■おぐり:以前は違う方がされていたのですけど、今は引き継いでわたしがやっています。

よこしまブロッコリーのチラシデザインとてもいいですよね。

■おぐり:ありがとうございます。作る時は作品の色を出すように気をつけています。世界観とか。言葉じゃなくって、見た目でインパクトを伝えられればと。で、台本が上がってくるのが遅いと…。

■にへい:最大限の情報は流してるじゃない(笑)。

続いていく日常

作品では死生観について表現するシーンが多々あるように思いましたが、本を書く時にその辺は意識されていますか。

■にへい:ありますね。小学校4年生の時に、ぱっと起きた時、「ああ、俺いつか死ぬ」って。そういうことを思ったことがあります。でも、人が死ぬ所よりも、生に繋がるものを表現したいと思っています。世界って、何かが終わったら、何かが始まって、という風に連続しているんですよね。例えば、学生の頃、4時くらいに寝る前にコンビニ行くと、そこでは次の日の準備が始まっているじゃないですか。それが色んなタイミングで、世界では起こっていると思うんです。特に子供ができてからは、そういうものを強く感じるようになりました。

『ライフ・イズ・ストレンジ』を観て、あれは死後の世界の話ですけど、言ってること、やってることはこちらの世界と通じているという印象がありました。

■にへい:そうですね。続いていく日常みたいなものは作品を作るうえで意識しています。例えば、凄く嫌な事って起こるじゃないですか。それをどう受け入れていくんだっていうのをあの作品では意識して作っています。

あの作品でにへいさんはすんなりと状況を受け入れる役でしたが、実際にもしにへいさんが、生まれ変わりの通知が来て、この世界から離れないといけないとなった時、どうされますか。

■にへい:ひとりで葛藤しますね。でも、受け入れてしまうんじゃないかなと。

セットでにへいたかひろ

よこしまブロッコリーでにへいさんは作、演出、音楽、出演と幅広く活動されていますが、特に力を入れているところはありますか。

■にへい:どれに力を入れるというよりも、ひとつの作品を作る上ではどれも必要なので、全てに力を入れています。ただ、物語を作っていく上で、一番時間がかかるのは台本ですね。

■おぐり:ベース、ドラム、リードギターが集まってひとつの音になるという感じですね。

■にへい:そんな風に見てるんだ(笑)。

■おぐり:どれが本業という訳ではなく、セットでにへいたかひろという感じです。けど、独りよがりでやってる訳ではなくって、表現者であるにへいさんの中に色々なパートがあるように思えるんです。

役者から作品作りをすることはありますか。

■にへい:キャラクター作りをするときに座組の役者のイメージを利用することはあります。

では、演出上で気を付けていることはありますでしょうか。

■にへい:居住まいから入るところはあります。例えば、ぼくの目の前に誰かが居て、正面を向いて喋っていると、こう、身体の前面が緊張するじゃないですか。

■おぐり:以前は違う言い方してましたよね。

■にへい:昔は日常感という言い方をしていました。ざっくり言っちゃうと役者に通じないんですよね。18くらいの時に関係性とか言われても、ええーってなっちゃう。

■おぐり:日常感って言うと、非日常が全くないように思えちゃう。居住まいと言うほうが前より分かりやすい。

■にへい:来月から佇まい。

■おぐり:変えるんだ(笑)。

■にへい:居住まいというのがあって、その間に流れる空気の揺れがあったりとか、演技だったりというところから、物語を作っていきます。会話劇というのがメインなので、何気ないやりとりから、背景にあるものを感じてもらいたいですね。

ちょっと技術論的なお話になってしまいますが、その空気の揺れなどを役者さんに意識してもらう為にやっていることはありますか。

■にへい:1対1で向かい合ってもらって、片方にゆっくり近づいてもらって、近づかれた方はもう耐えられないと思ったら下がってもらう。ほら、人によって耐えられる距離がありますよね。例えば、嫌いな人の隣に座らされてイライラしていたとして、ただイライラを演じるのではなく、何に影響されてイライラしているのか、理解して演じてもらう。そういうのは意識してもらうようにしています。

プラスアルファ

作品ではどのようなことをもっとも表現したいですか。

■にへい:会話劇をやっているのですけど、じゃあこれからと言うと、ジャブばっかり打ってるところにたまにはストレートを打ってみるとか、これまで培って来たものプラスアルファを作っていきたいなと。身体性が入ってきてもいいと思うし。ずっとこつこつと積み上げてきたよこしまブロッコリーというベースの上でですけどね。それを踏まえた上で新しいチャレンジをしていきたいと思っています。今は役者さんたちにアイデアを出してもらっている段階です。新鮮だよね。

■おぐり:新鮮。新鮮だし、面白い。次の作品にそれがかなり反映されるんじゃないかな。

じゃあ次回作は変わった形になりますか。

■にへい:大幅に変わるかどうかは。作品の色は変わることがあっても、根本の部分は変わらないと思います。

■おぐり:よこしまの持ち味は生かして。でも、これまでの作品を観てきた人からすると、変わったと感じる部分は割とあると思う。

今は新しいなにかを模索している段階なんですね。

■にへい:一貫していい物語をやっているというのは変わらないです。

「いい物語」というのは、ストーリー上のこと?

■にへい:それもそうですし、何か感じた部分があれば家に持ち帰ってもらえるようなものですね。

お前には負けるよ

作品についての話が出たので、少し具体的な話を。『ハレルヤ』を観たのですが、あれは、観客を人質という形で劇中に取り込むという試みがされていますが、作品を作る上で苦労された点はありますか。

■にへい:苦労したね、あれは(笑)。

■おぐり:もし万が一気持ち悪くなって立っちゃう人が居たりしたらどうしようとか、そこまで考えていたんです。

■にへい:本当にゴツイ方とか居て。逆にこっちに恐怖感があったりとか。

■おぐり:お前には負けるよって(笑)。お客さんの中には隙あらば行こうという方もいたらしいです。

■にへい:どこまで巻き込むかってのが難しかったよね。強制されるのが嫌だという方もいると思うので。素のままでいたい人はそのままでいられるし、のめり込みたい人はどんどんのめり込めんでいってね、という加減が難しかったですね。一カ所にまとめようという案もあったんですが、でもそこは演劇を観るというところを考えました。

■おぐり:適度な距離感。うちらの持ち味として、させられてる感は出したくなかったし。あと、それまで劇場入る前にそこで稽古することはあまりなかったんですが、この時は確か借りて稽古しましたね。その場所でなにか問題はないかとか、並べ方から全部。稽古場に遊びに来てもらった方に人質の役をやってもらったり、そういうのは普段よりやってましたね。

■にへい:居住まいは鍛えられたよね。

■おぐり:そして最終的にあの距離の客席になったんですね。

では次に、『見張り部屋からずっと』はボブ・ディランへのリスペクトなのでしょうか。

■にへい:その曲は知っているのですが、偶然ですね。偶然そうなっちゃいました。

映画をよく観られているということなので、影響を受けたとか、そういうこれまでの積み重ねから作品に反映されることはありませんか。

■にへい:そうですね。観たり影響されたりしたものが頭の中でぐちゃぐちゃに入っています。現代では全く新しいものというのはなくて、今あるものを頭の中に取り入れて、出していく、そういう世代なんじゃないかなと思います。

こぼれだしてくるもの

最後に、よこしまブロッコリーの見所を教えてください。

■おぐり:誰もが身近で感じていることとかを、訴えるというよりは、こぼれだしてくるもの。基本、表現するというよりもこぼしてこぼしてって感じ。あと感想で言われるのは、「生活を覗き見してるみたい」とか、「キャラクターと一緒に考えてしまった」とか「同じ世界に入っちゃった」とか。

■にへい:先ほどから何度か出ていますが、いい物語を。ざらざらしたことは書いているんですけど、乾いているというか、ざらっとしたこと。それでもちゃんと体温を感じられる作品を作りたい。…と断言する(笑)。更にそこから新しいことにも挑戦していきたいですね。

本日は長い時間本当にありがとうございました。

■にへい・おぐり:ありがとうございました。

おまけ

他に言い足りないこととかありますか。

■おぐり:ストレッチのこととか。健康にいいですよ(笑)。

それは文章化できません(笑)。

■にへい:じゃあいいです(笑)。