afterimage
高校時代からの友人である服部哲郎さん(写真右)とトリエユウスケさん(写真左)。現在はafterimageの主宰とプロデューサーという立場で一緒に活動を続けています。噛み合ないようで噛み合っている、とても不思議な二人三脚が面白いダンスカンパニーです。

アイデアでなんとかなるさ

お二人がダンスに関わるきっかけを教えてください。

■服部哲郎さん(以下服部):高校2年生の頃に色々な私学が共同でフェスティバルをやろうという話があって。共同の学園祭みたいなものです。そこで踊ろうという企画があったんです。群舞、今で言うよさこいなんですけど。それを覗きに行った時に、「あ、これだな」と思ったんです。それが動き始めのスタートです。それと平行して演劇部の活動をしていたんですけど、お芝居の中に踊りを入れるのが凄く流行っていて、じゃあ身体を動かしたことのある、経験のあるぼくが踊りを作ろうじゃないかと、それが高校3年生の時で、生まれて初めての「振付」です。

そこから現在まではどのように。

■服部:ぼくはあまり人から褒められたことがなかったんですけど、それでも、踊りのことに関してはそれなりにうまくいったんです。あるバレエの舞台に参加させていただいたんですけれども、20歳ぐらいの頃に。その募集条件が変わっていて、「バレエを踊ったことのない男性」がいいんだって。そこでなんでか分からないけど、人並みにできてしまったんです。そこで凄く自信をもらいました。それとほぼ同時期に、名古屋にコンドルズが来た。またその時の企画で作ったずんどるこ30というグループの一員として舞台に混ぜてもらいました。それが決定的な動機で。こんなことしていいんだって、それで凄いショックを受けて。それが終わった後、やることがなくなったぼくは、名古屋でそういうことしていた人たちが誰もいなかったので、勢いで、自分たちの周りの男性を集めてカンパニーを作ってしまおうではないかと。例え身体や技術がなくても、アイデアでなんとかなるさと。それで作ったのがafterimageです。

トリエさんのきっかけはなんだったでしょうか。

■トリエユウスケさん(以下トリエ):高校2年生の冬に、ビデオネタを演劇部で使いたいから、手伝って欲しいと言われて、演劇部と関わったのが、ライブと関わった最初のきっかけです。そこで初めて演劇と関わってから、これは面白いと思って、3年生から演劇部に入って彼(服部哲郎)と一緒に高校演劇をやってたんですけど。それからほどなくして引退して、そのままぼくは演劇のほうにいってたんです。他人の演出の舞台に出たり。それで、19歳ぐらいの時に哲郎と久しぶりに会ったら今はダンスをやっていると。チームを作ったと言われて。あ、同世代で自分のチームを持ってる奴がいるんだと。そこでちょっと顔を出してみようかって感じで、afterimageと関わるようになりましたね。といっても最初から演出とかではなくて、初めは舞台監督みたいな体でしたけど。

家に引き籠ってゲームばかりしてたい

ダンスの楽しさはどこにあると思いますか?

■服部:とてもたくさんあるんですけど…。ダンサーをして身体を動かすことの爽快さ。そして、舞台に立って皆に観てもらうことも快感です。また観客としては、ダンスを観ることでエネルギーや快感を得ます。振付家としては、ダンスを作っている過程で、ゼロから、アイデアとダンサーの身体が結合して、ダンスが構築されていく状態が好きです。積み上がっていくのが気持ちいい。

ダンスを始める前は身体動かすようなことされていたんですか?

■服部:バスケットボールをやっていたりもしていたんですが、基本的には家でゲームしてました。1日8時間。休みの日だと12時間から14時間くらい。

そういえばafterimageってオタク系が多いですよね。

■トリエ:はじめからダンスしていた奴なんてほとんどいないよね、ほんとに。

■服部:ぼくもこの公演が終わったらずっと家に引き籠ってゲームばかりしてたいです(笑)。

逆にダンスの辛いところは。

■服部:公演に誘って、あまり興味を持たれていない時とかは、少し寂しく思います。自分が一番素晴らしいと思っていることをやっているので。それに共感してもらえないとか、少しも興味を持ってもらえないとかは悲しいです。

踊ることに対しての辛さはありませんか。

■服部:自分が思い描いたことが形となる時に、生じてしまうギャップに自分の未熟さを感じます。ダンサーとして肉体が追いつかないことも悲しく思うし、素晴らしい作品を観た時に焦りを感じます。自分たちには技術がないので、素晴らしいダンサー達が魑魅魍魎のように踊っているところを観ると、それらとどのように戦っていったらいいのかと悩んでしまいます。

身体を動かすことは楽しくてしょうがないんですね。

■服部:そうですね。少しづつ分かったこと、できること、今までできなかったことが広がっていって。肉体の可能性が広がっていくのを最近は実感しているので。

ボケ合ってます

公演を観ていると、笑わせるシーンが多いように思えますが、単純にお笑い好きな方が多いのだとも思いますが、トリエさんはそれらを演出するうえで意識されていますか。

■トリエ:それは笑いが好きだという言葉に集約される部分もあると思うんですけど、もちろんそれだけじゃなくて、笑いがないとやだな、キツイのばっかじゃやだなという意識が強いです。観やすい、素晴らしいものを目指しているので、今の我々としては、お客さんの固い心を解きほぐしていく手段として、笑いはあったほうがいいなと。『コンテンポラリーダンス』そのものの印象を観やすく、軽くしていきたいと思っていますし。

■服部:ネタを作るのは自分もやっているのですけど、ついやっちゃうんです。ついボケてしまう。

そういう人たちなんですか(笑)。

■トリエ:もうどうしようもなく、こうなるよね、とか。それは否めない。

公演名も面白いものが多いですけど、どのように決めているのでしょうか。

■服部:お互いボケ合ってます。

■トリエ:一番主体にあるのは日本人らしさ。基本的にGOサインだすのはぼくなんですけど、まずは二人で会話して、そこでボケて、それを更に改良してボケて、そういうのの繰り返しの中で言葉が段々研磨されていく。研磨されていく中で、どこでGOサイン出すかは、日本人らしさを如実に表しているかどうか、語彙として受け入れられるものなのか。そういうところが重要になってくる。

■服部:あとはきっぱりしているか。日本人として毅然とした態度を表明しているかどうか。そういう雰囲気が感じられるかどうか。…とか。

最近は政治色が入ってきたかなという印象を受けるのですが。

■トリエ:今作は日本という島国が諸外国から圧力をかけられた時に怒鳴り返す言葉、という意味合いです。

■服部:我々が所有しているアイデンティティーの中に、日本人男性であるとか、あとはその世代とかってあるんですよね。それが自然と呼吸した結果なんです。我々にとって自然なタイトルなんですね。カンパニーメンバーは同じ世代の人間ばかり揃っているので。

■トリエ:決めてるのは二人だけど、メンバー内であまり異論が出たことはないよね。理由を聞かれたこともほとんどない(笑)。

■服部:ただ、外部の方がすんなり受け入れてくれるかどうかは(笑)。

いや、ぼくは好きです。かなり。

■服部・トリエ:ありがとうございます(笑)。

分かる快感

公演では色々なダンスをされている訳ですが、その動きの着眼点とかはどのようにして生まれるものでしょうか。

■服部:難しい言葉を使うと「文化的情報遺伝子」。ダンスの系譜とかあると思うのですけど、その変遷の途中に自分がいると思っていて、色々な影響を受けている。ぼくたちの上には素晴らしい先輩方、素晴らしい人たちがたくさんいて、たくさんのダンスの中の好きだった部分が残像として残り、それがぼくという個性によってアレンジされて出されている。かたや表現の中から出て来たアイデアだったり、格闘技を観ている時に出て来たものだったり、はたまた信号を渡っている時に得た感覚だったり、気付かないうちに色々なものを拾っているかもしれません。

公演を観たお客さんになにを感じて欲しいですか。

■服部:快感。高揚感。

■トリエ:スカッとして欲しい。

■服部:この後の食事がうまければいいよなあ、とか。更に欲を言えば、その人の人生のなにかちょっとした変化やきっかけになってくれればこんな嬉しいことはないなと思うのですけど。ぼくもダンスを観て始めたので。

じゃあafterimageを観てダンスを始めてくれると一番いい?

■服部:ダンスに限った話ではなく、我々がよく言っているのは、会社を辞めようかどうか迷っている人がいた時に、辞めてしまうような決断をさせるエネルギーとか。道理でダンサーが疲れる訳だ(笑)。1伝える為には10しなきゃいけないからね。

演劇になくてダンスにあるものってありますか。

■トリエ:もともと演劇をやっていたぼくがどうしてダンスに傾倒していったかといえば、非言語的アートというところ。言葉や表情で伝えるのではなく、動きというぼんやりしているもので色々なものを伝えようとするエネルギーは凄まじいものだと思うんです。少なくともぼくの中ではもの凄い心の揺さぶりがある。言葉やストーリーを重ねていって「なるほど」と納得するのではなく、視覚的な情報から衝動を得たい。…フィルターなんですよね。なにか、だれかを経たのち、その意味が伝わった時の感動は大きい。無声演劇とかのほうがわかりやすいんですけど、意図が伝わった時って、「あぁそういうことか」という、単純に分かる快感があると思うんです。作品の中ではそういうものが色んな角度から置いてある。それを楽しんでもらいたいですね。

■服部:ダンサーが踊っている身体を観て、それが自分の身体に反映される。つねられているのをみてなんか痛そうだな、とか。気持ち良さそうだなとか、つられて伸びていく、みたいな。

シンクロするような感じでしょうか。

■服部:そうです。同じ肉体を持っているので、共犯性が生まれやすいかなと。

英語で言うとエクスプロージョンだね

今後、afterimageとして、どんなダンスを目指したいですか。こだわっているところとか。

■服部:ぼくはコンタクトにこだわったりするんですけれども。凄く悩んでいる部分で、我々が稚拙な身体なので、他の世の中のダンサーが作っているようなことと同じようなことをしてもしょうがないと思う。我々は我々ならではの視点や、世代や、バックボーンというものがあって、それらをどう生かすか。我々の持っているアイデンティティーじゃないと思いつかないような感覚をダンスの中に盛り込んでいきたいですね。それはもうゲームの世代だったり、テレビをよく観ていた世代でもあるし、パソコンが凄い発達した世代でもあるし。色んなダンスがしたいです。ひとつの方向に行くのではなく。

■トリエ:もっとこう爆発したい。

■服部:そうだね、爆発したい。

■トリエ:爆発に巻き込ませたい。

■服部:英語で言うとエクスプロージョンだね。

■トリエ:言いたいだけだろ(笑)。

■服部:ぼくたちは爆発するようなもの、圧倒されるようなものが好きなんです。

爆発にこだわりたい?

■トリエ:とにかく、カタルシス!(笑)

単なる現象だと思って

afterimageの見所を教えてください。ここを観て欲しいとか。

■服部:ぼくたちは踊りを踊りたいから踊っている訳だけれども、なにかを伝えたいとか、そういうことは実はあまり思っていなくて、まずは自分たちがある。これがお客様にとっての気に入ることであればいいなと思います。で、普段冴えない、社会からはぐれた情けない男たちがそれに対する反撃をするかのように、命を削ってやっている様。汗を飛び散らせている様を。舞台でガーッと踊っているぼくたちは、普段はそんなに大した連中じゃないんです。あいつら普段バレエとかやってるのかなとか、こんなチャラチャラダンスやってるんだから、お金持ちの子じゃないかとか、思わないでいただきたいですね(笑)。

■トリエ:…まあ、つまらないことはしない、という約束だけしかできません。

そこだけは必ず守る?

■トリエ:もう100%全部良かった!なんて人はいないと思うけど、絶対に何十分か本当に良かった、というシーンがあると思う。脳裏にビビッと焼き付くような。それはダンスだったり照明だったりシンクロだったり。その人に合った、絶対にキラキラした瞬間があると思うので、とにかく実際に観にきて欲しいですね。

■服部:あまりやる側がこういうこと言ってもいけないのかもしれませんけど、あまり深く考え過ぎないで観てもらいたい。この動きはこういう意味があるのかとか。単なる現象だと思って観てもらえればと思います。桜がバーッて風に舞ってる姿って爆発的だけど、意味はないじゃないですか。

■トリエ:それはそうだよね。ただそこにあるだけで凄く素敵なこと。そういうことをなんとなくみんな色眼鏡で見ちゃうのはちょっと、嫌だね。

今日は長い時間ありがとうございました。

■服部・トリエ:ありがとうございました。