一緒に行ってもいい?
ではまず、ヒロセさん、遠藤さんが演劇を始めたきっかけを。
■ヒロセエリさん(以下ヒロセ):小学校5、6年生の時に、七夕のお芝居を体育館全体を使って上演されたことがあったんです。で、すっごくロマンチックだったんです。それを観た時のトキメキというか、感動が大きい。
■遠藤友美賀さん(以下遠藤):わたしは子供の頃はひとりでなにかを演じて遊んでいる暗い女の子で(笑)。で、たまたま近所の、同級生のお母さんに声楽をやってる方がいて、舞台に出るってことでお母さんと観に行ったんですよ。その時に凄い感動して、小学校の6年で演劇部に入り、そこからもう中学高校とずっと。どっぷり。
じゃあ二人とも、きっかけは自分が出た訳じゃなく、観て感動したという。
■ヒロセ:体験が強烈だった。
それで、それぞれ演劇を始めて、高校の演劇部で知り合うんですね。
■遠藤:そうです。
出会った時のこと覚えてますか。
■遠藤:わたしは隣のクラスで、体育が一緒だったんですよ。で、わたしは演劇部に入るつもりで高校に来ていて。演劇部の仮入部に行きたいんだけど、誰も一緒に行ってくれる友達がまだいなかったから、どうしようかと思っていたら、体育の時に,「わたし演劇部の仮入部に行くんだ」って言ってる声が聞こえたんですよ。それがヒロセさんだった。で、「わたしも行きたいから一緒に行ってもいい?」って言ったんです。
それは覚えてます?
■ヒロセ:なんとなく。
■遠藤:なんとなく?(笑)。
■ヒロセ:いや、この話遠藤さんからよく聞くんで。もしかしたら嘘かもしれない(笑)。
■遠藤:本当だって。モンチッチみたいな髪型の子がいるなって。ソフトボール部にいそうな感じの子が。
ヒロセさんはひとりで行くつもりだった?
■ヒロセ:私、双子なんです。姉がうちのメンバーで、広瀬喜実子というんですけど、彼女が演劇部に入りたいと言ってたんですよ。だから私はついていっただけなんですよね。明確な意志があったという訳でもないです。
さっきの七夕の話は(笑)。
■ヒロセ:いやいや、あれは凄い感動的で(笑)。元々好きだったと思うんですよ。妄想癖も強かったし。将来の夢を「何か考え事をして、お金になる職業ってないのかな〜?」って。お金に変わる職業があれば一番いいのに〜と、漠然と思っていたんです。
高校の頃から仲良かったんですか?
■ヒロセ:そうですね。遠藤さんは皆と仲が良かったよね?
■遠藤:ヒロセさんはちょっと変わった子だったんで…。
■ヒロセ:変わった子?!(笑)というか、自分の世界が強過ぎて、困った子だったとは思います。
■遠藤:強烈でしたよ〜(笑)。
当時の役割はどうだったんですか?
■遠藤:役者です。
■ヒロセ:私はスタッフでした。
■遠藤:血迷って出てることもあったけどね。
■ヒロセ:そうそう(笑)。たまに出ることもあったけど、全く役者としての才能が無かったんで。うちの二人(遠藤&喜実子)は、昔から役者としてちゃんとやってましたけど、二人と違って私には全く才能がなかったから。
それは自分は向いてないと思うようなきっかけがあったのですか?
■ヒロセ:やっぱり表現できないもどかしさのようなもののほうが先に立ってるんですかね。頭で、ああしたい…もっとこうすればいいのに…とか。それを表現できる肉体を持ってなかったんですね。
究極に寂しい。
では次に、fullfullがどういう芝居を作っているのか簡単に教えてもらえますか?
■ヒロセ:えっと、具象舞台で行われる会話劇がベースなんですけど。…人の業と言いますか、性(さが)といいますか、そういうものを笑いで見せたり、人の可笑しさや哀しさを見せたりしながら、物語性を大切にして作っています。重要なシーンや悲しいシーンを見せる前には、なるべく笑いを入れるようにしているんです。なおかつ悲しいことやったら笑いのシーンをもってくるようにしています。まず悲しいところをちゃんと観て頂きたいから〜。緩むところをちゃんと作っておいて、緊張感でお話に引き込まれて欲しいと言う思いもあるんですけど…。
それは技術論ということでしょうか。
■ヒロセ:う〜ん、どうなんだろう。自分の照れくささじゃないですかね。私は恥ずかしさと戦いながら芝居作っているので。お芝居するなんて恥ずかしくて仕方ないのに、表現せざるをえない、作らざるをえない。その恥ずかしさと戦っているんです。
じゃあ悲しいことをそのまま悲しいってやることが恥ずかしい?
■ヒロセ:何か格好悪いような気がして…。だから所謂悲しいシーンじゃなくて、気付くと悲しいシーンになっていたという見せ方が好きですね。
では、今の話と繋がってきますけど、ヒロセさんがこれまで書いてきた脚本で共通するようなテーマとか、もしあれば。
■ヒロセ:「業」と「性」みたいなものは常に自分の中にあって、その中で「愛情」、「家族」、「生と死」について、ですかね?人が死ぬということに関しては出てきますね。あと、憎しみは愛情のないところでは生まれないと思っているので。愛があるが故に憎んじゃうという。本末転倒的な哀しさ、かな。
死ぬとか生きるとかって実際そういう体験をしていないと、本当に深く考えようとしないと思うのですが、ヒロセさんにはそういう体験みたいなものはあったのでしょうか?
■ヒロセ:うーんと、あのね、小さい頃から凄くこだわってたと思うんですよ。愛する人たちがこの世からいなくなるということの強烈な恐怖感と言うか。だから…寂しいんですね。究極に寂しい。愛しい人がこの世からいなくなることへの恐れ、ですよね。
それは今でも。
■ヒロセ:ありますね〜。そういう話ばっかりですもんね。ある日突然、誰かがいなくなっちゃうとか。それは理不尽な理由であったり、納得いかない理由だったりして、残された人がそれにどう対応したらいいのか、右往左往する人々の悲喜交々(ひきこもごも)の話、ですね。
去る人の話ではなくて。
■ヒロセ:去る人の話はあまり書かないですね。あっ、一回だけ書いたことあります。
その一回だけ書いた去る人の話はうまくいきましたか?
■ヒロセ:凄い暗かったです(笑)。いやでも受けは良かったですよ。それはそれでひとつの見せ方としてうまくいったと思います。自分でうまくいったと言うのも変だけど(笑)
■遠藤:あれはあれで、再演して欲しいという声が結構あります。
ちょっとだけ解決するとか。
役者に求めていることってありますか?
■ヒロセ:私の書く芝居は、不器用な人であったり、徹底的にどこかとぼけていたり、過剰過ぎちゃったり、代償を求めて過ぎちゃったり、とにかくどこか過剰な人々が出てくるんですよ。だから役者さんも、どこか不器用な人が好きですね。人として不器用な方って、とても魅力的だと思うんです。不器用だけど誠実に向き合って作っていける人が好き。不器用な方って悩み方も面白くって、答えの出し方も凄く面白いんです。
はい。
■ヒロセ:気にしなくていいことを過剰に気にしたり、不器用でウジウジしちゃったり日々何にもかも上手くいかない…。舞台上にそんな人達がゾロゾロ出て来てその人達がちょっと幸せになったり、ちょっとだけ問題を解決するとか、そういう姿を描くようにしています。お客様がそれを観て、ちょっとすっきりしてくれたら嬉しいなぁ〜と思っています。
■遠藤:アンケートにもよく書かれる。「あの人が気付いてくれて良かったです」って。
■ヒロセ:ちょっとだけ解決するとか、ちょっとだけ安心するとか。ちょっとでいい(笑)
■遠藤:劇的に未来とかが開けるとか、そういう話ではないんです。実際、日常ってそうですもんね。小さな事なんだけど、本人とっては結構大きかったり、「あ、昨日より楽になった。」って気持ちが救われたりする。
■ヒロセ:これはさっきの質問になってしまいましたけれど…。あとは一緒に楽しんでくれる役者さんが好きです。例えば、稽古場で誰かが失敗しちゃった時に、そこでキレて怒るよりも、「あ、失敗しちゃったね」って、皆で笑っちゃうくらい余裕があるほうが面白い。そこから新しいアイディアが生まれて、こういう面白いことやろうよ〜って、なる時もありますしね。
■遠藤:それは甘さとか、馴れ合いとかではなく、いい作品を作る為に。そのほうが座組としていい座組になれる。いい座組じゃないといい作品は作れない。
■ ヒロセ:お互い、駄目なことや失敗、トチっちゃったことを、笑い合いながらも次はやらないでおこうねって。励まし合い、お互い高め合う。だから、稽古していくと皆愛おしくなっちゃう(笑)。男女関係なくね。だからそういう座組にはしたいな。
次の質問もほとんど答えちゃっているんですけど、どんなカンパニーにしていきたいですか?
■ヒロセ:そうですね、そんな感じで(笑)。どんどん大きなカンパニーにはしていきたいです。
大きくしたい。
■ヒロセ:メンバー全員、役者で食べさせて行きたいんです。で、やっぱり、役者で食べれるよーにーと思ったら、お客様が沢山入る大きな劇団にならなきゃ、難しい。こんなことを言うのは恥ずかしいのですが、自分達は楽しくて面白くていいもの作っていると思っているので、やっぱり多くの方に観て貰いたいんです。切実に。それにバイトしたくないもんね(笑)。
心を揺さぶられるものが好きなんです。
では次に、fullfullの見所を。
■ヒロセ:のほほんと言うか、のらりくらりしているというか。落ち込んでる時に、お芝居を観たくないかもしれないけど、試しにちょっと来てみたら気が楽になるかもよ?(笑)ですかね。
観に来てくれる人にすっきりして欲しい?
■ヒロセ:答えになってるか分からないけど、いつも終演後に、一番後ろの席からタタタタターッて前まで走っていって挨拶するんですよ。挨拶と言っても、本日はありがとうございました〜って制作的な場内アナウンスなんですけど。芝居終わってお客様の顔を見るのが私なんです。で、その雰囲気が弾んでいるんですよ。悲しくて泣いている方もいらっしゃるし、笑っている方もいるし、むすーっとした方もいらっしゃるんですけど、何か会場全体から感じる空気がホコッて弾んでいるようなものを感じるんです。…これだなって。公演するうえでひとつの正解が見えたような気がしました。
なんらかの形で心が動いてもらう。
■ヒロセ:そうですね。私自身が、映画でも小説でも、お芝居でも、心を揺さぶられるものが好きなんです。心が揺れるような出来事。だから揺さぶらせて欲しい。自分もそれをやりたいなぁ〜と。だからそれをご挨拶の時に感じると、凄くありがたいなと思います。いつも受けていた立場だったのに、発信側になれたという。やっぱりこう、醍醐味だなーって。
脚本書く時に、お客様を想像して書いたりはしますか?
■ヒロセ:あ〜ないですね。自分の為に書いているので。私は普段、見えない思いに悩まされ続けてるんですよ。
言葉で表現できないような思い。
■ヒロセ:例えば、あの時あの人が冷たかった、嫌われているんじゃないか、とか。そこからふわーって勝手に妄想しちゃうんです、あれこれ。で、怖くて仕方がない。生きていくのが嫌だってくらい落ち込んじゃう。もうそう言うことで悩むんだったら、それを全部本に書いちゃいなよ〜って、人に言われて「なるほど〜」と思って。だから落ち込む人に観て欲しいというのは、私がすぐ落ち込むからなのかも。
でも、気持ちをただ書くだけでは自己満足になってしまわないですか。
■ヒロセ:さすがに、そのまま作品にすることはしないです(笑)。そこから作品として昇華させないと見せ物にならないですし…。自分が真剣に悩んでいることでおかしいことっていっぱいあるな〜と思っているんですね。例えば私、愛情に飢えていて(笑)、温もりに凄く飢えているんです。で、尋常じゃないくらい飢えていて、もうハグして欲しい、ハグして欲しいって真剣に悩んでいるんです。でもそれを冷静に見て「可笑しいな〜私」っとも思うんですよ。じゃあそれを凄く大袈裟な形に出して、極端なベクトルに振るだけ振って、見せ物として描いたら面白いんじゃないかなって。この前の公演(『ゆんぼーさんが来る』)で、皆が抱きしめ合うシーンがありまして、それは笑いのシーンとして書いたんですけど、私は真剣に本当に困って書いているんですね。でもそれで人が笑うんだってことも分かっているんです。だから皆笑ってくれて良かった(笑)。
じゃあ遠藤さんハグしてあげてください。
■遠藤:嫌です(笑)。
満たされたら芝居やめちゃうかな。
fullfullの名前の由来は。
■ヒロセ:フルって「満たす」ってことじゃないですか。私、満たされない欲望が凄いんですね。私の満たされない過剰感や、餓鬼感が、凄いホント過剰だなっと思っていて。埋まらない埋まらないって。それを満たしたい。それを満たせる芝居を作れたらいいなっていう願いと、自分への皮肉ですか。
それで、満たされてきましたか?
■ヒロセ:満たされない(笑)。たぶん死ぬまで満たされないと思うな。
■遠藤:全部満たされたら芝居やめちゃうかな。
■ヒロセ:え〜満たされるの怖いな(笑)。たぶん一個満たされたら、もう一個満たされない部分が出来ると思うんですよ。悩みは尽きることなく続きますし、悩みから解放されることなんてないから。私の中に水槽があったら、きっと空っぽ。一滴もない。満たし方が分からない。それで芝居と言うものがあって良かったなって。書くことで、ある程度お茶を濁せているから。
観に来た客は満たされているでしょうか。
■ヒロセ:満たされていると言えば傲慢な…気がします。…満たされてくれているといいな〜とは願っています。努力はするし、これでいいのかって常に疑いながら作っては行きたいです。
もし脚本書いてなかったら大変なことになってましたね。
■ヒロセ:ねー。だから書くって仕事があって良かった(笑)。
長い時間本当にありがとうございました。
■遠藤:ありがとうございましたー。
■ヒロセ:楽しかった。変な人って思われないかな(笑)。
おまけ
あのウサギ(チラシ等でよく使われているウサギのキャラクター)は何者ですか?
■ヒロセ:うちの喜実子さんがチラシとかのデザイン全部やってるんですけど、勝手に描いてましたね。
■遠藤:ただ彼女がウサギしか描けなかったからという説が(笑)。でも、このウサギのおかげで、「あのウサギのトコ!」とか「チラシがずっと気になってて見に来ました」とかよく言われます。
名前とかありますか?
■ヒロセ:うささ。…うささ氏です。つい最近喜実子さんが「名前はうささ氏」です、と急に言い出したんですよ(笑)。