劇団クセックACT『観客』

Print

劇団クセックACT『観客』の稽古場にお邪魔させて頂きました。

最初にお邪魔した時にはとても静かな稽古場という印象でしたが、稽古が始まると一転して不思議な圧力を感じる空間へと一変しました。そして演出の神宮寺さんにお話を伺うことで、どのようにしてそれが生み出されているのか、その片鱗を感じることが出来ました。

「動く絵画」とも評されている劇団ですが、場面のどこを切り取ってもひとつの絵として観ることが出来そうで、ひたすら圧倒される時間を過ごしました。

●神宮寺啓さん(構成・演出・舞台美術)の話

――初めて当サイトで取り上げさせて頂くということで、クセックさんが普段どのようなお芝居をされているのか教えてください。

神宮寺啓さん(以下神宮寺):元々ぼくが18歳位、1970年頃にスペイン語をやっていたんですね。それでスペイン語圏を中心としたお芝居をやり始めたんです。スペイン語を翻訳し、我々風に解釈し、脚色して演出、上演するのが基本です。その目的としては、『赤毛物』と言われているんですが、外国のものを日本人がやるとカツラを被ったり、洋風の格好をしたり、外国人の真似をしたり、そういうものが多いんですね。でもそれは違和感がある。そこで日本人による方法論を見つけようとして、今のような形になりました。そしてこれは田植えから始まっていると思うのですが、日本人は下半身の文化だと思います。文楽もそうだし能もそうだし。言葉にしても、日本人は母音が多い。そこをうまく使い、語るとか唸る。歴史的なことを言うと浄瑠璃や浪曲。そういう独特の民族性を取り入れながらスペインのものを演出をする。最終的には外国人に、特にスペインの人たちに、自国の本を日本人がどのように解釈し取り入れているのか、それを認めさせたいんですよね。これらは全く違う手法だと思いますが、そこから文化の一致点を見いだせればと思います。そこがうちの特色ですね。

――今回『観客』という台本を選ばれた理由を教えてください。

神宮寺:これはガルシア・ロルカという作家の作品なのですが、きちんとした翻訳が無く、本自体もきちんと出版されていなかったんですが、1980年代にスペインでようやく「こういうものだろう」というテキストが出来ました。これはガルシア・ロルカの作品の中でも難解な作品ですが、ロルカを特徴付けた作品でもあるんです。そしてうちの田尻が今回この翻訳に挑戦することになりました。そしてもうひとつはスペイン内戦が1936年に勃発し、ガルシア・ロルカが銃殺されて80年。妙な縁だと思いやってみようかと。

――その難解な作品に実際に取り組んでみての感想を教えてください。

神宮寺:難しいです。何を言っているのか分からない。ガルシア・ロルカは何故こんなことを書いたんだろうかとか、これがどう結びついていくのかとか、どういう構造になっているのかとか全く分からなかった。なのでこれまで手探り状態で進めてきましたが、ようやくイメージが少しづつ分かってきて、まだ半分位ですが目処は付いたかなと。

――演出はどのような進め方をされているのでしょうか。

神宮寺:演出プランは考えるんですけれども、悉く違う違う違う、という風になります。それで役者さんに動いて貰い、「こっちの方がいいな」となることが多いです。そういう意味では稽古場は出会いの場ですね。

――お客様にここを見て欲しいというものがあれば教えてください。

神宮寺:お芝居で大事なのは目の前に現れたものが嫌悪感を催すものなのか、もしくは驚きをもたらすものなのか、ということです。驚きというのはこれまでに無かった価値観に出会うことで、嫌悪感というのは「全くわたしの中にはありえない」ということだと思うんです。そのどちらかの選択になると思うんですが、それを素直に観てくれればいいなと思います。分からなくたって構わない。ぼくらの芝居は理解しようとすると頭がくしゃくしゃになるので、理解はしないで、目の前に現れたことに対し、素直に感じて欲しい。嫌悪感でも構わない。

+++++

劇団クセックACT『観客』

翻訳・構成・脚色:田尻陽一
構成・演出・舞台美術:神宮寺啓
会場:愛知県芸術劇場小ホール
日時:2016年4月28日(木)~5月1日(日)
出演:榊原忠美、永澤こうじ、永野昌也、玉川裕士、山田吉輝、山形龍平、久保川真守、火田詮子、平井智子、斉藤弥生、大西おに、今枝千恵子、柴田真佑、川瀬結貴

詳細はこちら
http://www.ksec-act.com/