清水宏さん
山の手事情社出身で、現在はコメディアンをメインとして活動されている清水宏さん。ただ目の前にあることに全力でぶつかる、そんな性質がこのインタビュー中にも垣間見えました。とにかくお客様を楽しませる、その一心で全力で努力する。愚直な程の前向きさを持つ方でした。
俺は無罪だ!

清水さんが現在の活動をされるきっかけを教えてください。

■清水宏さん(以下清水):遡ると小学校の学芸会と高校の時の文化祭ですね。でもぼくは偉人みたいに大袈裟なことじゃなくって、ただ演劇が自分に取って一番気分が良かったんですよね。学芸会で『桃太郎裁判』という創作劇をやることになりまして、それで一夜空けたらぼくが桃太郎になっていた。朝登校したら、黒板に『桃太郎・清水宏』と書かれていた。クラスの中でも変わった位置にいる子だったのかな。向いてたのかなと思います。「あいつやり過ぎじゃねえか」と話題になりました。結局有罪になるんですが、その時に火が付いたように俺が抵抗したんです。「俺は無罪だ!」と連呼し続けて。それで幕が閉まるんですが、ちょっと騒然となりました。ぼくの中でスイッチが入るってこういうことだなって思いました。景色が変わるというか。5年生かな。それがきっかけだったと思います。高校でも文化祭とかで作劇をしたりしました。それ以上の面白みが他に無かった。衝撃的に鳥肌が立つくらいの体感ですね。褒められたんだと思います。先生や先輩に。褒められた嬉しさや、鳥肌が立つ程の手応え。自分が集中することで客席が騒然となる。そこが最初ですね。

そこから高校を出られて、早稲田に入られた。

■清水:早稲田の伝統ある『演劇研究会』というところがあるんですよ。『第三舞台』が出たり、一時期演劇の中心だった。そこでぼくはもう大変身をしたいと思っていた。高校では勉強なんかしちゃったりして、そういうことから跡形もなく変わってやろうかと。そこには現在演出をされている鈴木勝秀さんという方がいて、新人を勧誘する時の謳い文句というのがあったんです。「我々ははずれものである。最低人である。人前に恥を晒してお金を貰う。こんな図々しい仕事はないが、こんな面白い仕事はない」。それでよしと思って。訳の分からないことになってやろうと。

早稲田には演劇をやるつもりで入学されたのでしょうか。

■清水:そうですね。東京でそういうことをやって、学校から脱出してやろうと思っていた。

そこから『山の手事情社』に入られたきっかけを教えてください。

■清水:当時第三舞台が注目されていたんですよ。いよいよマスコミに出ていこうという時で。山の手事情社には鴻上尚史さんと好敵手というか、喧嘩をしながら芝居を作っていた安田雅弘さんという方がいて。でもぼくとしては、第三舞台のことも知らなかったし、ポストのある所に出たい。それだけだったんですね。知らない強みというか。山の手事情社ありきではなくて。面白いかどうかはどっちでも良かった。結果面白かったんですけどね。

形にするまでは生きて帰れないぞと思っていた

ここからコメディーを主体にされるようになったきっかけを教えてください。

■清水:ぼくは演劇を情念とかをぶつけ合うところだと思っていたんですが、でも山の手事情社の安田さんは、「世間を楽しませるようなことをやれよ。ライバルはひょうきん族だ」と言ってたんですよ。でも本気だったんで、基礎稽古は伝統的なことをやっているのに、それが終わると「はい。面白がらせて」と。1日5〜6時間くらいはフリーエチュードをやらされた。その中で、ぼくは真に受けるタイプだったので、ひょうきん族を本気でぶっ殺すつもりでギャグを考えていた。普通はどこかでそれはまた別だからということになるんですけど。また、ニューヨークに貧乏旅行に行った時に観たスタンダップ・コメディーや、落語家の春風亭昇太さんに出会ったということもあります。芝居をとにかく観ていて、非常にアバンギャルドな人だった。その人に蕎麦屋の2階でやっている高座に呼ばれたりして、それで喋れるようになりたいなって。スタンダップ・コメディーとか、落語の地喋りみたいなものが出来るようになったらどんなに面白いだろうと。

色々なきっかけがうまく重なったのですね。

■清水:逆にまずいこともですけど(笑)。形にするまでは生きて帰れないぞと思っていた。それでお笑いやり始めたんですが、昇太さんの舞台に出ていたら高田文夫さんが「面白いな」と、『高田文夫杯争奪 OWARAIゴールドラッシュ』に。そしてそこには日本放送の方が観にいらしていて、『オールナイトニッポン』が決まるという。でもそこに最初の壁があって、お笑いの方と試合をすると全く勝てない。彼らは新しく来る奴を乗り越える方法を知っているから。そんな中で自分のオリジナルの方法を見つけるのに苦労した。お客さんとの第一次接近遭遇の際にどうやって心を掴むかに数年掛かりました。

オールナイトニッポンが決まったというネタはどういうものだったのでしょうか。

■清水:親父の話をしました。親父はコミュニケーションや愛情の示し方が非常に下手な人で。演劇を始めた時にも「そんなことは認めない」と言われていて。そんな頭を掻きむしるような親父との修羅場が、話をすることで軽くなった。その笑い話をコメディーのひとつのパターンとした。あとはコマーシャルやアニメのパロディーをガンガン打っていくスタイルだったと思います。緩急じゃなく、ずっとハイテンションで。

センスの良いものを口にしてたまるか

これまでに影響を受けた作品や人物を教えてください。

■清水:これが一番難しい。褒められるようなこと言ってたまるかと、007で一番駄目だったと言われる『ムーンレイカー』の一番最初のパラシュートのシーンが好きだと答えるようにしています。カット数も数えるくらい好きで50回くらい観てるんですけど、それはそれだけのことで。色々あり過ぎて絞れない。

それで敢えてムーンレイカーと。

■清水:全然影響は受けてないんですけど(笑)。わざとそういうことを言ってしまう。格好良いこと言う人がいるじゃないですか。『セックスと嘘とビデオテープ』とか。観てるし面白いんですけど、それはねえだろと思う。影響というと、『アニマルハウス』とか。若い頃よく観ていて、途中で馬鹿じゃねえのとなって、今観ると面白いなという屈折があって。どれか選べない。どれにも文句を言いたい。センスの良いものを口にしてたまるかというのもあります。フランス映画とか。人物で言うと、昇太さん。昇太さんからは「俺じゃない絶対に」と言われるんですけど。あとは『トム』くらいです。ぼくが人物で一番凄いと思うのは『トムとジェリー』のトムです。あんな面白い奴はいないなって。タイミング、間合い、トムは一番良い頃のアメリカのコメディアンの影響を受けている。意外と多いですよ、トムって人。古田新太さんも言ってましたね。「半分でもトムとジェリーみたいにやれたらなあ」って。タイミングが彼抜群なんです。殴られる前のフリとかも完璧なんです。完璧です。彼は。しいて言うなら彼ですね。

普段ネタはどのように作られていますか。

■清水:ぼくは脅迫観念のようにアイデアを出していきます。取り憑かれたように出す。そこから何かと何かを結び付ける。ポアンカレというフランスの数学者の考えたアイデアの生まれ方というのがあって、AとBというカテゴリがくっついた時の化学反応がアイデアだと言うんです。それを出来る限りぼくは違うことにしようと思っていて。例えば『007』と『カジノ』だったり『ラスベガス』だと普通なんですが、『007』と『農作業』とか、『007』と『名古屋弁』とか。『007引越しをする』とか。くまのプーさんだったら、『くまのプーさんサイコキラー』とか。そういう違う要素を足すのが出発点で。ぼくはライブで体験談を話すことが多くて、どこに行ったら面白いかなというのは考えます。俺からかけ離れたってことだと、ヒップホップとかダンスの大会に殴り込んでみたりとか、フィギュアスケートやったり、乗馬やテニスをやったり。今は英語。英語でニューヨークやイギリス、エジンバラでコメディー。そういう風にちょっとやばいなって所に自分を放り込む。でも嫌なことは嫌。本当に嫌なところには行かない(笑)。ちょっと怖いけどわくわく出来る所に行く。それが体験談の基本。

100%フィットする言葉じゃないとぼくは言わない

ご自身のライブの特徴やこだわりを教えてください。

■清水:欲張りなんです。これはこういうものだよってものにしておけない。色々な角度からこねりあげないと気が済まない。あとステージの中に収まってられる気がしない。プロセミアムで収まるものはぼくのライブではないと思っています。でもそこに注目している人って少なくて。舞台でやっていればお客に届くに違いないと思ってやっていても届かねえよとぼくは思うんです。撹拌してこねり上げる。そしてはみ出るってことですね。それがぼくの特徴である。

そのはみ出るというのは意識的に。もしくは物理的に。

■清水:物理的にもです。聞いてないなと思ったら下りますから。「聞いてる」って(笑)。以前昇太さんになんで枕をそんなにやるのかと聞いたことがあって、「俺が何を言っても面白いとなるまで喋る」と。それをぼくはフィジカルでやっています。通り一遍のグルーヴじゃない。グルーヴ感については徹底的にこだわっています。それがライブだと思っているところはあると思います。

『冒険ルポトーク』という企画がありますが、この企画をやろうと思われたきっかけを教えてください。

■清水:わくわくするじゃないですか。自分のエネルギー、感受性の異常な強さ、ただの駄目出しにも物凄くショックを受ける、その特性を生かせることもあります。皆が「そこは行って欲しいけど大丈夫か」「俺は行かないけど行くなら見てみようかな」という所に行く。うわーってなって欲しい。感想が言葉じゃなく、「えーっ」とか「うわあ」とか「おおーっ」ってなって欲しい。感嘆詞が理想。世間では皆同じ言葉を使うじゃないですか。近似値の言葉。『想定内』とか。そういう言葉が嫌なんですよね。100%フィットする言葉じゃないとぼくは言わない。徹底的に流行言葉は排除します。皮肉って使う時以外は。

サプライズとミラクルは俺が担当するから

清水さんは役者としての活動もされていますが、演技をする上で意識している点はありますか。

■清水:ぼくが意識しているというか、いいなと思うのは受けの出来る役者ですね。攻撃的な役回りを頂くことが多いですが。一言一言とか行動にショックを受けて、ちゃんと色と空気が変わることが大事。生の舞台では特に。映像並みの正確さと、いちいちショックを受けるライブ感の共存が演劇だと思っている。台詞をきちんと言うのも大事だけど、一回一回きちんと揺れることが大事。揺れをいつも客席に届ける。相手とのラリーが届くのを含めて演技なのかなと思います。

海外でも活動されているということですが、日本と海外の笑いの違いは感じますか。また、あるとした場合どの辺りに違いを感じますか。

■清水:エディンバラ・フェスティバル・フリンジという世界で一番大きなフェスティバルのコメディー部門で3年間やってきているのですが、更に今年から韓国とか台湾でも現地の言葉でやろうと思います。いずれスペイン語でもやりたい。いま外国人向けに英語のライブをやっていますが、表面や手続きの違いはあれ、基本はどこでも同じことをやっていると思います。でも英語の笑いの方が制約が少ない。政治のこと、差別のこと、セックスのこと。それはどんどん触れていくし、触れないとやっていけない。日本人であることの限界であるとか憎しみ、他の人種に思っていること、言わないと「おいおい」ってなる。だからセックスのこととかも言いますね。日本だとそれは無い。でもいずれ日本でもやろうと思う。日本はタブーが多過ぎる。でも日本人にはそこを扱える知性とエネルギー、工夫はある。ぼくはイギリスで戦うコメディアンとして、日本人という特性はそれに向いていると思っていますが、現実タブーは多過ぎる。少なくともライブでは無くていいんじゃないですかね。現在テレビとかでやっているような、皆が面白いと思っているから面白いとか、こう言ったらこういうオチを言えよってことではなく、自分の信じていることを壊したりする方が面白い。そこを担当したいと思っている。恥ずかしげもなく言うんですけど、サプライズとミラクルは俺が担当するから。

通り一遍じゃないものに触れて欲しい

テンションを上げ続ける為に必要なことはなんでしょうか。

■清水:もうね、上がる。上がります。基本的にステージに上がったら、そうなるようになりました。テンションが上がっていないと話にならない。それがぼくの仕事なので。誰よりもあらゆる局面でテンションが高いはずという自負と、それが無いと死んだも同然。昔はね、凄くテンション上げていったんですけど、今はもう上がります。海外では飛び入りライブっていうのがあるんですよ。「5分だけやってよ」と言われたら「やる」って言うようにしてるんです。するとやる前の『やばいな、これは向こうにいる奴らは簡単じゃないぞ』というのが引き金になって上がっていきますね。

それは訓練されたものなのでしょうか。それとも元々持っている素質なのでしょうか。

■清水:元々あると思うんですよね。親父から引き継いだものでもありますし。でも訓練もあります。ダンスだとかヒップホップだとかにしても、教本みたいなものがあって、それに比べたら阿呆みたいな訓練ですが、本気でどうしたらテンションが上がるかを考えたら何かしら方法はある。非常に馬鹿みたいな言葉ですけど、語ることは出来ると思います。方法論と訓練は、あります。お客さんをこっちにやったら駄目だみたいな想定はあって、その危機感。客が引いたら死ぬ。その想定に対する神経質さがあって。それが段々当り前になってきた。テンションは勝手に上がるものじゃない。客との関係の中にある。冒険ルポトークの時にどうしてもテンションが上がらないこともあって、誰も見ていないのになんでこんなことしているんだって。でも未来の客のことを想定してテンションを上げる。

もし他に言い足りないことがあれば。

■清水:ぼくはね、ライブというものに本当に足を運んで欲しいと思っています。自分で選んだものに金を払うということの面白さ。いま面白いって思っていることの他にも面白いものはたくさんあるんだってことを観に来て貰いたい。そして、突き動かされるとかスカっとするようなエンターテイメントがそこにある。本当に面白いものは泣けるし、面白いし、確実にそれを志向している人間がひとりいて、中部圏の人には足を運んで貰って、お金払ってわざわざ観にいくことの中に強烈な娯楽があるってことを、通り一遍じゃないものに触れて欲しい。来てくれた以上は全力で楽しんで貰うように格闘します。それは保証します。是非一回足を運んで欲しい。

ありがとうございました。

■清水:ありがとうございました。