藤井陽子さん
知多を中心に、ゆっくりと着実に歩みを進めてきた劇団C-Factory。作、演出、役者として活動している藤井陽子さんはシャイな方で、照れ笑いがとても素敵な方でした。
辞めるっていう勇気がなくて

藤井さんが演劇を始めたきっかけを教えてください。

■藤井陽子さん(以下藤井):中学校の部活動がきっかけだったんですけど。中学校は必ずクラブに入らなきゃいけなかったんです。元々演劇部に入るっていうのは全然なかったんですけど、入りたいクラブがなかった。その時に4軒くらい向こうに住んでる先輩がいたんです。その人が「来ない?」って誘ってくれて、入ったのがきっかけですね。

その時は、既成の戯曲をやっていたのでしょうか。

■藤井:中学の演劇部に、たぶん随分前の先輩が作ったものだと思うんですけど、オリジナルの戯曲がいくつかあったんですよ。で、それを幼稚園児の前で上演する。やりましたね、幼稚園とか保育園とか。あとは文化祭で、それは既成の脚本を皆で選んで、これいいんじゃないってやるっていう。

その時の体験が楽しくて、その後に繋がったのでしょうか。

■藤井:あまり楽しくなかった(笑)。顧問の先生がもの凄いスパルタだったんですよね。小柄な女の先生だったんですけど、腹筋とかを皆でやってると、ぴょんと上に乗ってくるんです。お腹の上に。

全体重かけるんですか?

■藤井:全部乗ってくるんです。両足ぽんって。小柄って言っても40キロはあるじゃないですか。そんなような先生だったんですね。結構皆泣いてたりとか。あそこが駄目だここが駄目だって言われて。だから部を変わる人も続出といった感じだったんですよ。

藤井さんはそれを3年間。

■藤井:続けましたね。辞めるっていう勇気がなくて。あと上下関係も結構厳しかったんで、楽しいっていう思いはあんまり中学校の時にはない、ですね。

そこからどうして今後も続けていこうという気になったのでしょうか。

■藤井:高校に進学して、また絶対クラブに入らなきゃいけなかった。水泳部くらいに入ろうかなと思ってたら、中学の時に誘ってくれた先輩が同じ高校に居て、スカウトしに来たんですよ(笑)。「入るよね」とか言われて。で、上下関係が厳しいじゃないですか。先輩が言うから「じゃあ入ります」って。ただ意外と、中学の時に抱いていたイメージと逆だったんですよね。凄く楽しくって、高校の時は。で、高校の時はのめり込むような感じで、お勉強しに行くというよりは、部活をやりにいくという感じで高校に通っていました。

やっぱり自分たちでやりたいなと思って

ではそこからC-Factory立ち上げまでの経緯を教えてもらえますか。

■藤井:高校3年間凄く楽しくやって、「プロに行かない?」って、その時の同級生に言われたりもしたんですけど。いま考えるとプロじゃないと思うんですけど、東京とかでコンスタントに公演を打ってるような劇団に入りにいかないかって話もちらっと出たりもしたんですよ。でも高校の一番最後の卒業公演の時かな。お芝居することが楽しかった訳ではなくて、たぶん、仲間内でいることが凄い楽しかったんですよね。自分たちでなにもかも決めて、作り上げて、公演を打つ、その過程が凄く面白くって、それは東京に行ったり、プロの役者さんになるということでは叶えられないだろうなと思ったんですよ。「その話はわたしはちょっと……」って断って。あ、でも、大学入ってしばらくお芝居やってなかったんですよ。結局中学高校と6年間演劇をやってきちゃったんで、もう違うことをしたほうがいいだろうと思ってたんです。それで一度離れてたんですけど、誘ってくれる人があって、2、3ヶ月で戻っちゃって。

早いですね(笑)。

■藤井:早かったですね(笑)。それでやっぱり自分たちでやりたいなと思って、高校の卒業生だとか、先輩だったりとかを。その時は先輩たちも立ち上げようとしてたのかな。で、いいじゃないかということで一緒にやろうって感じで立ち上がったって感じですね。

その時には『C-Factor』という名前だったのでしょうか。

■藤井:そうですね。名前はもちろん後で考えましたけど。

では、その劇団名の由来を教えてください。

■藤井:知多市の劇団なので、「知多」の「C」ですね。後は、これだけだと寂しいのでなにか言ってこいと言われたんですけど(笑)、元気付けるとか、そういう意味の「Cheerful」の頭文字かな。

それって、いま思い付いたことではないですよね。

■藤井:いまではないですけど、後付けであるのは確か(笑)。後は元気になれそうなビタミンCとか、色々な説があります。でもわたしは知多のCでしか覚えていないので。で、それを作り出すという意味で「Factory」。

それは誰が決めたのでしょうか。

■藤井:全員で決めたはずなんですけど、わたし全然覚えてなくて。いつの間にかC-Factoryになってたなあ、みたいな(笑)。その時にいたメンバーが二人くらい、同じものを持ってきてたんです。C-Factoryがいいんじゃないのって。たまたま案が被ったので、それで決まったと思うんです。

それは相談する訳でもなく。

■藤井:そうですね。

それは運命的なものを感じますね。

■藤井:記憶が曖昧だ(笑)。

「面白いです」と言えるようになってきた

本を書き始めたのはいつくらいからなのでしょうか。

■藤井:それはC-Factoryを立ち上げて、書く人がいなくなってからですね。

元々は他に脚本家がいたのでしょうか。

■藤井:最初はですね、既成の脚本をやってました。高橋いさをさんとか。後はキャラメルボックスもやりましたね。なにがきっかけだったのかな。やれるものがなかったからかな。既成の脚本だとどうしても、男性がこのくらいで、女性がこのくらいで。旗揚げの時は当時男の人がひとりしかいなかったんです。で、やれないねって話になって。その時たまたまいた男の人が「じゃあぼく書くわ」って。その子は同級生なんですけど、高校の時から書いてたんで。

そこからなぜ藤井さんが。

■藤井:で、書けなくなったんですよ、その人が。ずっと書いてくれていた人が。詰まっちゃって。で、彼にばっかり書かせているのも申し訳ないし、皆書くことをやってみないかって、全員で書くことになったんです。全員で書いて、全員で読んで、面白いねっていうのと、やれそうだねという、可能性ですね。やれるかやれないか。を、考えた時に、たまたま決まったのがわたしの脚本だったんです。

そしてその後も書かれている訳ですが、手応えなりあったのでしょうか。

■藤井:書く作業は辛いばっかだし、上演したらお客さんがスカスカだったんですよ。で、演出もなにをやってるのかよく分からなくって、凄く勝手なことばかり言っていた気がします。今もそうかもしれないですけど(笑)。だから後悔が凄く残った作品だったんですね。だから未だにやり直したいなと思っています。書き直して、舞台も身の丈に合った所にして(笑)、演出もよく考えて、やり直したいところだらけなんです。それがあったから書いてるんです。それで満足したらもういいやってなってたと思うんです。かも、しれないし、状況が許さなかったかもしれない。状況が許さなくて「お前が書け」ってなってたかもしれない。

今は本を書くことについてどう思っているでしょうか。

■藤井:今も決して書くのに向いてるとは思わないし、演出もズレたことを言ってるのはなんとなく。とにかく自信が全然ないです。ただ、面白いか面白くないかと言われれば「面白いです」と言えるようになってきた。面白く作品を仕上げようという気持ちにはなった気がする。

自分の戯曲の特徴があれば教えてください。

■藤井:求められている答えか分かりませんけど、暗転中に絶対に音声を挟んでるんですよ。発表したのが2作で今3作目なんですけど、全部そうですね。なにか暗転中に間を埋めるものを書いている。1作目はラジオCMだったんです。2作目の時は電話。今は日記とか手紙とか。形態は全然違いますけど。なんか、静まり返るのが嫌なのかな。無駄な時間を使いたくないんですかね。貧乏性なので。あと、演出するのは自分なので、ト書きいいやとか思っちゃう。駄目なんですよね、本当は。井上ひさしさんとか、ちゃんとした脚本を書かれる方は、とにかく細かいなって、戯曲読んでると思いますね。自分の思いを込めるならちゃんと説明しなきゃいけないって思うようになってきました。でもどっちがいいんでしょうね。勝手に勘違いしてくれたほうが面白い方向に転がることもあるじゃないですか。思いを伝えるならちゃんと書いた方がいいのかな。

ペンを持った瞬間にぱーってなっちゃうんです

演出上で気を付けていることがあれば教えてください。

■藤井:脚本を書く以上に、演出って向いてないだろうなって思うんです。結局なんで演出を引き受けたかというと、書いたからとか、わたしが一番経験年数が長いからとか、そういう理由だけなんですよ。演出として、資質があるからとかそういう訳ではなくて、なんていうか成り行き上なっちゃったというところがあるんで。なので、まずは成り行き上なっちゃったとしても、投げ出さない、とか。当り前のことなんですけど。あと、演出の過程で起こった面白いことは極力拾おうかなと。メンバーに言わせたら全然拾ってないって言われちゃうかもしれないけど。わたしの心の中では面白い事があったらどんどん採用しようと思っています。あとは面白かったら多いに笑う。

演出が全然反応してくれないと不安になりますよね。

■藤井:そうなんですよ。わたし役者やってたので、なんにも反応ないとちゃんと見てくれてるのか、なにを思われてるんだろうとか。駄目出しする前に脚本に書き込むじゃないですか。その、ペンを持った瞬間にぱーってなっちゃうんです(笑)。なので気持ちが凄く分かるので、面白い時は面白かったよって言わなきゃなって、伝えなきゃなって思います。

一緒に劇団で活動するうえで、持っていて欲しい資質、能力はありますか。

■藤井:ひとりぼっちではできないというか、色々な人が寄り集まってものを作るので、まず世の中には色々な人がいるんだということを踏まえてもらっているといいな。これはメンバーとも話し合って、まずはそこだよねって話になったんですけど、でもそれは演劇に関わっている人の資質じゃなくて、社会人として当り前のことですよね。あとは一緒にわいわい楽しくやってくれる人。面白がってくれるというか、その場にいることを楽しんでくれる人がいい。

わたし代表じゃないんですよ

劇団の代表として、皆をまとめる際に気を付けていることがあれば教えてください。

■藤井:あの実はわたし代表じゃないんですよ。

え、そうなんですか?

■藤井:C-Factoryって珍しいって言われるんですけど、代表が誰もいないんですね。誰も責任を取りたくないってだけなんですけど。最近はわたしが仕切ることになっちゃってるんですけど、でもそれはカラフル(『演劇博覧会カラフル3』)の時に演出をやっていて、今度の芝居も演出だけをやるんですね。だからずっと仕切っている状態が続いているだけで、脚本を決める間はあれやろうとかこれやろうとか、言ったことあんまりないんです。むしろ練習を休みがちなメンバーだったんで(笑)。

カラフルの際には代表となっていましたよね。

■藤井:そうなんです。カラフルの時は代表を決めてくれって言われたような気がするんです。で、成り行きで。

では質問を少し変えて、メンバーのひとりとして、劇団をやっていくうえで気を付けていることはありますか。

■藤井:きちっと皆で話し合ったことはないんですが、C-Factoryはずっと、自分たちが楽しいと思えることをお客さんにお見せするというのが大前提にあると思うんですよ。だから、皆が楽しそうにやってくれているのかどうか。自分も含めてですけど。今の作品を面白いと思ってくれているのかどうか、作る過程を面白いと思ってくれているのかどうかというのは、わたしは凄く気にします。他の人はどうかは知らないですし、面白くないと思っている人もいるかもしれないですけど、一応、気にはします。

もし楽しそうにしていない人がいたらどうしますか。

■藤井:よく話し合うしか解決方法はないですけど。でも、その先はわたしたちが決めることではなくて、個人個人が決めることですよね。C-Factoryに居たくないというか、もっと別の所を見てみたいと思う人だって絶対いると思うんですよ。その時は無理に引き止めたりしないと思いますね。

劇団との相性もありますしね。

■藤井:そうなんですよ。最近は軽いものに特化してお芝居を打ってるんで、たまには重たいものをやりたいと思う人も絶対いるはずなんですよ。だけど、色んな人がいて、やっぱり大多数の意見が通っていきがちなので、少数派の人たちがつまらない思いをしてるかもしれないなって、最近そこは凄く悩んでますね。皆が楽しいってどういう状態なのかよく分からなくなってきちゃって(笑)。ただ、昨日言われたんですけど、自分が役者として立てなくても、C-Factoryに居ること自体が楽しいんだから居るんだっていうことを、言ってたんですよ。そういう楽しみ方というか、それはあるかなと。それは救いになりましたね。

ちゃんと声に出して言ってくれるのはありがたいですね。

■藤井:そうなんですよ。ね。溜め込まないで。皆結構気い使いなので、溜め込んだりしてると思うんですよね。わたしぐらいなんですよ、好き勝手言ってるのは。

ぼーっとしてただけ

今年14年目ということで、ここまで続けられてきた原動力があれば教えてください。

■藤井:いま絶対言えるのは、ぼーっとしてただけ(笑)。本当にそうです。気が付いたら14年という。

その過程で解散の危機等もあったりしたのでしょうか。

■藤井:解散の危機とまではいかないですけど。あの、今でこそコンスタントに打っていっていますけど、ちょっと前までは1公演終わる度に「次やるの?」って会話からスタートだったんです。全然計画的じゃなかった。今も計画的かというと計画的じゃないですけど。次やるのというのは、必ず1公演終わって、清算とか反省会とかあった時に、誰かが口火を切ってどうするって話に。解散の危機が毎回あった。

コンスタントに公演を打つようになったきっかけみたいなものはあったのでしょうか。

■藤井:まずひとつは新しい団員さんがいっぱい入ってくれたことですね。集めておいて「もう止めます」とは言えないじゃないですか。「えーわたし1年目なのに」みたいな(笑)。まだ舞台一回も立ったことないのにっていうのは、それは集めておいて失礼だろうというのがあって。責任を果たさなきゃいけないと思ったのはあります。あとはカラフルの存在が大きかったです。カラフルがあるからその前に1公演打っておかないといけないね。カラフルがあったから1公演その後に打っておかないといけないね。3公演続けてものを考えるようになったというのはあった。

演劇の面白さ、魅力をどのようなところに感じていますか。

■藤井:ちょっとずれちゃうと思うんですけど、中学の時から多少止めてた時間もあるんですけど、気が付いたら20年くらいやってるんですよ。人生の半分以上をお芝居をやって過ごしていて、芝居をやらない生活がどういうものなのか、ちょっと分からなくなっちゃった。止めたらどうなるか考えると恐ろしいというか。だから続けてるんじゃないだろうかと。いずれ、自分の状況が許さなくて止めざるを得ない状況が出てくると思うんですけど、その時は凄く退屈になるんじゃないかと思います。なんだかんだ言って自分を忙しくさせてくれていると思うので。お芝居やってなかったらもしかしたら引き籠りになっていたかもしれないので。ある程度の社交性も身に付けさせてくれたし。

引き蘢りになる要素を持っているという自覚がある。

■藤井:そうですね。小学4年生くらいまで、クラスに友達一人くらいとか。凄く暗い子だったから(笑)。なんか5年生で急に人生が変わったんですけど。それは周りの人たちのおかげなんですけど。突然あだ名を付けられて、皆がそのあだ名で呼び始めた。今もそのあだ名なんです。

『豆』?

■藤井:そうですね。

なんで豆なのでしょうか。

■藤井:たぶん、藤井陽子なので、名字の頭と名前のおしりをくっつけると『ふじっこ』になるじゃないですか。そこからお豆さんが来たんじゃないかな。

明確な理由は分からないんですね(笑)。

■藤井:わからないです。突然授業中にトントンと肩を後ろの子から叩かれて「お豆さん」って言われて。「なんのこと?」って(笑)。

必死で頑張ってるのに決めきれない感じ

藤井さんが演劇で表現したいことはありますか。

■藤井:うまく言えないんですけど、人がなにか必死に頑張っている。なんでもいいんですよ目的がなにであっても。例えば、凄くトイレに行きたくて必死になってトイレを探している姿とか、なけなしの10円を道に落として必死になって探している人だとか、なんでもいいんですけど、必死になってる姿というのが凄く滑稽で面白いなと思うんですよね。そういうのを愛おしいものとして、お客さんに見せてあげたいなというのはあります。……なんか、格好いいこと言っちゃったな。やだな(笑)。

インタビューの見出しやタイトルに使われるかもしれませんよ。

■藤井:やめてください(笑)。シャインズマンの時もそうですけど、緑川君がお母さんの格好をして告白する場面というのは、あれこそ凄く可愛らしいというか、必死だったからあの格好であんなことが言えて、でも伝わらなかったという(笑)。ああいう決まりきらないところがもう。必死で頑張ってるのに決めきれない感じというのがそういうのが凄く好きなんです。大抵の人好きだと思うんですよ。トホホな感じの人が好きなので。そういう状況を脚本にも出したいなと思うし、演出も決めきらないほうが好きなので、格好良い台詞があったとしたら、絶対に、格好良いと思う状況で言わせたくないな。

藤井さん自身は、役者としてどのような役を振られることが多いですか。

■藤井:最近は厳しい人とか、ちょっと変わったというか、変な人というか。あ、あと老け役が多いです。わたし声が低めなんですよ。だからおばあさんとかおばさんとか本当によく振られました。いま思い出したけど、自分の書いてる脚本も、女の子はどっかおばさん臭いので。可愛い子がどうしても書けないというか。だからそういうのはなんか滲み出てるんじゃないですかね(笑)。

最後にC-Factoryの見所を教えてください。

■藤井:どこが見所なのか教えて貰いたいけど。

なかなか自分から言うのも難しいですよね。

■藤井:あとこっぱずかしいというのもあるんですけどね(笑)。C-Factoryの原点というか、自分たちが楽しいと思ってることをやるのが根本だとわたしは思うんですね。だからそれをお客さんが共有してくれた時、凄くこっちも嬉しいですし、なんか楽しそうにやってるなあというのを観て欲しいかなと思います。うまく言えないなあ。それはどの団体でも持ってると思いますけど、それしかC-Factoryにはないと思うので。他に飛び抜けて凄く上手な人がいる訳でもないし、脚本も皆が書いてて、その都度これがやりたいというものが来たりするので、固定してない分、まあ最終的にはC-Factory色に染まるんですけど、やっぱりばらつきは出るし。これが見所というのがないというのは弱点かもしれませんね。ぼんやりと、楽しそうにやってるのを観てくださいとしか言えないかもしれない。良かったんですかね、こんなんで(笑)。

良かったです(笑)。ありがとうございました。

■藤井:ありがとうございました。