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植松侑子 さん

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みなさんこんにちは、植松侑子(うえまつゆうこ)と申します。実は何枚も名刺を持っていて、仕事で劇場などに行くと、知り合いの方々には「今日は何の人?」と尋ねられるような、所属不明な働き方をしています。
とはいえ、表に出るときはだいたい次のどれかであることが多いかもしれません。ひとつが、舞台芸術制作者にむけた人材育成と労働環境整備のための中間支援組織「NPO法人Explat(エクスプラット)」の理事長。もうひとつが、これから到来する100年ライフ、マルチステージの人生のために、舞台芸術の専門性を武器に、自分自身で自身のキャリアをデザインする人たちのプラットフォーム「合同会社syuz’gen(しゅつげん)」の代表社員。……でもそれ以外の肩書や名刺を使うこともありますし、神戸大学大学院国際協力研究科 博士課程後期課程の学生でもあります。周囲から見ると、いろいろやっていて何がやりたいのかよく分からない人に見えるかもしれませんが、自分的には一本軸は通っているので頭はこんがらがりません。「多様性のある寛容な社会を実現するために、舞台芸術をツールとして社会に活かす」方法を今は模索している段階で、そのための方法をあれかな、これかな、といろいろな人や組織と協働しながら考えています。
いくつもの肩書を持っていた寺山修司さんは、本業を聞かれると「僕の職業は寺山修司です」と答えていたそうですが、今後多くの人がそういう働き方になっていくんじゃないかな、と思います。
ハローワークや国勢調査などで使用されている、厚生労働省の職業分類があります。その職業分類は、社会におけるシステムの運用上不便なので、職業に線を引いて括っているだけで、本当はいろんな職業はグラデーションのようにつながっていると思うんですよね。社会の中で、個人がどういう専門性を身に付け、どのようなキャリアを積んでいくかは、便宜上の職業分類とは関係なく、もっと自由で多様だと思います。そもそも舞台芸術の制作者という職業そのものが現在の職業分類には存在していませんし。変化の激しい社会の中で、これからますます「聞いたことのない職業」が生まれてくると思いますし、それは自然なことだと思います。だから「制作者」という言葉に絡めとられずに、舞台芸術を通じて何をやりたいのか、どうしたいのかをどんどん追及し、オンリーワンのキャリアを極めていったらいいのではと思います。

さて、前回の執筆者、高知県文化財団(アーツカウンシル担当)斎藤努さんにご紹介いただきました通り、斎藤さんとは同じ「四国民」です。私は愛媛県と香川県のハーフとして香川で生まれ、愛媛で育ち、高校卒業とともに温暖な瀬戸内式気候から飛び出し、東京サバンナへと参りました。高校卒業とともに四国を離れた私が、四国民を語っていいのかという気持ちもありますが、現在四国にいる斎藤さんが四国民と認めてくれたので、これから胸を張って生きていけそうな気がします。
そういえば、全く本筋とは関係ないのですが、愛媛県は謎の文化がたくさんあります。特に「プール」関係ではこの謎さが突出していると思います。かまぼこ板で作った「命札(いのちふだ)」というものをご存知でしょうか?愛媛県民は命札を忘れたらプールに入れません。たかがかまぼこ板、されどかまぼこ板です。そして愛媛県民はプールに入る前には必ず左胸をグードンドン叩きます。これは、急にプールに入ると「心臓がびっくりする」のであらかじめびっくりさせておくためだと習いました。

申し訳ありません、謎の愛媛プール文化で話がそれました。さて、斎藤さんからいただいた質問は「舞台芸術と適当な距離感で付き合うコツを教えてください?」でした。ふむ、私が舞台芸術と適当な距離感で付き合えているのかどうかわかりませんが、私にとって舞台芸術とは「手段」であって「目的」ではないということははっきりとしています。
冒頭でもチラッと書きましたが、私は多様性のあふれる寛容な社会の実現のために、「舞台芸術」というものが非常に大きな役割と可能性を持っていると考えています。舞台芸術は観客の目の前、まさに「いま、ここ」において遠く離れた点と点を結節することができる表現媒体です。遠く離れた点とは、普段出会うことのない多文化であったり、遠い過去や遥か未来であったり、同じ社会で生きていながらも「関係ない」「理解できない」と思っていた隣人であったりします。作品を通じ、日常生活の中では気づくことのできない視点を持てたり、自分とは異なる解釈を掘り下げたりして思考する経験は、とくに「不寛容」が蔓延する社会において非常に重要です。私は自分の「制作者」としての様々な仕事を通じ、常に「社会」と「舞台芸術」の関係を考えています。だから特定の何かに固執するのではなく、常に思考を外に開いていて風通しよくあろうと意識しています。なので、業界の中のいろんなことに絡めとられて煮詰まることも、閉塞したりすることも少ないのかもしれません。あと、他業界の友人が多いというのもあるかもしれません。彼らと話していると舞台芸術「だからこそ」のものと、舞台芸術「じゃなくてもいい」こと(彼らがやっている他業界の方がより適合性のありそうなもの)が自分のなかにはっきりしてきて、「なにがなんでも舞台芸術じゃないとだめ!」という感じにはなりにくいかもしれません。舞台芸術であろうがなかろうが、人の創造性とは尊いものです。
そうそう、あと最近思う舞台芸術のすばらしさとして、(映画やコンサートもそうなので舞台芸術に限ったことではありませんが)、電車に乗ればほとんどの人がスマホを見ているような時代に、携帯電話を切ってある時間、日常を離れて作品世界に没入することってなかなかないですよね。これはメンタルヘルスケア的にもこれは効果があるんじゃないかと思ってます。

さて、次のバトンはNPO法人福井芸術・文化フォーラムの濱見彰映さんにお渡ししたいと思います。福井芸術・文化フォーラムは、様々なイベントや市民参加型のアートプロジェクトを企画・運営されているのでぜひ濱見さんからご自身の活動もご紹介いただきたいのですが、質問はこちらです!
目の前に「舞台芸術が大好きなので、将来アートマネジメントの仕事につきたいんです!どうしたらこの仕事に就けますか?」という大学生がいたとして、濱見さんならどのようなアドバイスを行いますか?
この業界で働く者なら一度や二度ではなく受けたことがあるであろうこの質問。私自身も、ほかの皆さんがどのようにお答えするのか興味津々です!どうぞよろしくお願いいたします。